「ねぇ、シンジぃ?」

「ん〜? なに? アスカ」

「明日なんだけどさ、買い物つきあってくれない?」

「い〜よ〜」

「アスカ、一人だけずるぅい! 私も行くぅ!」

「「はいはい、わかってる(わ)よ」」

「さすが未来の夫婦ね、息がぴったりだわ(にやり)」

「「......」」


with all one's heart
#6 ”SUNDAY MORNING HAPPY!”




「くすくす...か〜わいい寝顔っ」


ここはシンジの部屋。
几帳面なシンジらしく小奇麗に片づけられていて、インテリアも落ち着いた感じのもので統一されている。
そして熟睡しているこの部屋の主の寝顔をサファイアブルーの瞳が覗き込む。

昨日から始まった彼女の新しい朝の日課。
それは愛してやまない少年の寝顔を心ゆくまでながめ、そして起こしてあげること。
その顔はだらしなくゆるんでいる..が、彼女もそれは自覚している様だ。

《だめぇ...ほっぺたがゆるむのがとめらんないわ。
 でもしょうがないか、幸せなんだから。
 さぁ、起きてもらうわよ? シンジっ!》

そしてアスカはあどけない顔をしたままの少年を起こしにかかる。
レイが見たら『甘いな..』とつぶやくだろうが、まずは優しく..


「起きて、シンジ! 朝よ!」


と、身体を揺さぶりながら声をかける。


「...うにゃ...もうちょっと..」


案の定、起きる気配がない。
おまけに、レイが起こす時とまったく同じ反応しかしていない。
シンジの寝起きの悪さをまだ理解しきってないアスカは素直にむくれた。


「むぅ〜なによもう! こんな美少女のフィアンセが起こしてあげてるっていうのに! それならそれで考えがあるわよ!」


アスカはシンジの頬にそっと両手を伸ばす。
そしてその白く細い指先で彼のほっぺたをつまんで、逆方向に引っ張った。


「(むにっ)...ふにゃ..ひゃんらぁ..?」


珍しくこの程度でシンジが反応を示す。
それは奇跡に近いことなのだが、彼も彼女も気づいていない。


「くすくすくす..起きた?」

「ひゃにぃ? あひゅか?...ひゃんでほほにひるのぉ?」

「ぷっ...あはははははっ!」

間抜けなシンジの言葉。
アスカは笑いをこらえることができずに、それまで引っ張っていたシンジのほっぺたを放すと、お腹を抱えて笑い出してしまった。


「なんだよぉ...?」


シンジはまだ状況が把握できないらしく、ぼうっとしている。
その無警戒な顔。

《可愛いっ》

彼女はさっきにもましてそう思った、小悪魔の様に微笑みながらほっぺたをふにふにと突っついてみる。

《あれ? 柔らかいのね? シンジのほっぺたって。》

先程は気づかなかったが、まるで赤ん坊の様に柔らかい肌。
思わずまた、むにょーんとばかりに引っ張りはじめた。
ひとしきり遊んだ後、またシンジに声をかける。


「今日は買い物につきあってくれる約束でしょ? 早く起きてよ! シンジ!」

「うん...わかったから、もうちょっと寝かせて...くぅ..」


多少甘い懇願の声なのだが、この状態のシンジに通用するわけがない。
アスカはたちまち眉を寄せて不機嫌な表情になった。

《むか! シンジのバカぁ!
 そうだ!...ちゃあ〜んす。》

何を思いついたか、彼女はゆっくりと立ち上がり、呼吸を整える。
その口元はまたゆるんでいる。

《行くわよ、アスカ。》

【どさっ】

「ぐえっ! なんだぁっ!?」

「起きた?」


アスカはここぞとばかりにシンジの体の上に覆い被さるように飛び乗った。
シンジの反応を確認したあと、顔を上に向ける、すると。

《あ...シンジの顔がすぐ近くに...
 や、やだ...顔が赤くなってく...でも、いいよね?
 ...わかってくれるよね? アタシの気持ち。》

彼女はそっと目を閉じ、心持ち唇をつきだす。
その頬は期待と恥ずかしさでほのかに赤く染まっている。


「アスカ? どいてくれないと起きれないんだけど?」


だが、シンジの言葉は期待をまったく裏切るものだった。
そうなると、残るものは恥ずかしさと新たに湧いた怒りだけ。


「んもうっ! シンジの鈍感っ!!」


【ぱっしーん!】

と、乾いた音が響く。


「アスカぁ、僕がいったいなにしたっていうんだよ...?」


さすがに目は覚めたらしいが、朝っぱらからいきなり引っぱたかれてはシンジも納得がいかない。
そんなシンジにアスカは立ち上がり、赤鬼よろしく全身を朱色に染めて怒鳴る。


「なにもしないのがいけないんじゃないのよ!!」

「へ?」


この少年にそういうことを期待するのが無理な話なのだが、恋は盲目、鈍感と判っていても期待は捨て切れないらしい。
アスカは下を向いて悔しそうにそっとつぶやく。


「....いいじゃない..婚約してるんだから...おはようのキスぐらいしてくれたって

「なにか言った? アスカ」

「なんでもないわよっ! さぁ、早く起きなさい!」

「はいはい、わかりました」


そう言ってシンジは起き上がってベッドから出た。

《バカバカバカ! シンジのバカ!
 まったく、恋する乙女の気持ちぐらいわかりなさいよ!》

シンジがそばを通り過ぎる時、アスカは心の中で悪態をつく。
そしてまた彼のベッドに身体を投げ出した。
大きく息を吸い込む。

《シンジの匂いだ...》

その時。


「おわっ!」

【ごすっ】

シンジの声とともに、なにやら鈍い音がした。


「なにやってるの? お兄ちゃん?」

「あ? レイ? パジャマのすそ踏んづけてこけた...」


何事かと振り向いたアスカの目の前には転倒し、頭を抱えているシンジと、あきれた顔をしたレイが立っていた。

《なにやってんだか...シンジったら。
 ほんと...レイの言うとおりそそっかしいというか、ぼけぼけしてるっていうか。》

とは、アスカの感想。


「はいはい、いつまでもいちゃついてないで、朝ご飯にしましょ。(にやり)」

《レイ...見てたわね?》


レイのニヤリ笑いから、アスカは全てを悟った。















3人は第3新東京市の中心街にあるデパートへ来ている。
ここならば、大抵のものが揃うし、とりあえずここで服を見たあと、それぞれが必要な買い物をするということにしてここへ来たのだ。
現在は3件目のテナントを出ようとしている。
シンジは今さらながら、買い物につきあうと言ったことを後悔していた。

《それにしても、女ってヤツはなんでこう服選びが好きなんだか。
 レイに買い物につきあわされるたびにそう思う。
 おまけに僕は人ごみが嫌いで、ファッションに無頓着だからなおさらだ。
 どうでもいいから早いとこ買う服決めてくれ〜》

とは彼の心の叫び。
女性の買い物につきあうのは、自分自身も楽しむか、あきらめの境地に達するかのどちらかしかない。
そして、男性側に嫌気がさしてくると、女性は敏感にそのことを察してくる。


「お兄ちゃん! 次行くわよ!」

「ほら! シンジっ! 早く来なさい!」


案の定、嫌気がさしてきたシンジに気づいたのか、アスカとレイは彼を強制的に引っ張り回している。
右手をアスカ、左手をレイが取り、まるで犯罪者の護送だ。
そんな3人に周囲から好奇と嫉妬の視線が浴びせられる。

《うぅ...周りの視線が痛い。
 だけど、僕だって好き好んでやってるわけじゃないのに、なんだってこんなに注目されなきゃならないんだよ。》

シンジとて、アスカとレイが注目されるのはわかる。
なにしろとびっきりの美少女二人だ、片や明らかに外国人の血を引いているとわかる紅茶色の髪を持つ少女。
そしてもう一人は神秘的な雰囲気を持つ蒼銀の髪の少女だ。

お兄ちゃんったら、相変わらず気づいてないわねぇ、自分も女の子の視線を集めてること。》

レイは困惑した顔のシンジを見てそう思った。
彼は自分自身がその中性的な顔だちとその長身により、この二人に対する男性陣の視線と同じだけ、女性陣からの視線を集めていることには気づいていない。
そんな周囲の女性に見せびらかす様に、数着の服を手に取ったアスカがシンジのそばに寄って来て、身体に服を合わせてポーズを取ってみせる。


「ねぇ、シンジぃ! これどうかしら? 似合う?」

「そんなこと僕に言われたってねぇ...わかんないよ」


困惑している様な、憮然としている様な複雑な表情のシンジ。
その彼の背後から、レイがひょっこり顔を出して言う。


「アスカ、お兄ちゃんってファッションには無頓着だから、聞くだけ無駄だよー」

「むぅ〜そんなこと言ったってさぁ、シンジに決めてもらいたいんだもん!」

「あ〜それいいなぁ! んじゃ私もぉ!」


アスカのいかにも恋する乙女らしい言葉に、レイも賛同した。

《なに勝手なことを言ってるんだ? この二人は?
 レイだって今、僕に聞くだけ無駄とか言ってたじゃないか。
 いつもセンスがないだのなんだの言って、僕の服だって自分が決めてるくせに。
 女の子って...わからん。》

とは今さらながらのシンジの弁。
一生かかかっても女性の心理など理解できないものだとは思うが..


「それじゃ、気合い入れるわよ! レイ!」

「わかった! アスカ!」


『おーい..』と、シンジは心の中で声なき声を出した。
そして、美少女二人はまるでシンクロしたかの様にシンジを見ると、見事にハモってこう言った。


「「ちゃんと見てね! シンジ(お兄ちゃん)!!」」

「...はい」

「「よろしい!」」


シンジの了承を強制的に引き出した二人は次から次へと試着していく。
まずはお互いに体の前に服を合わせてチェックしあう、そして納得がいったら試着室へ入り、着替えた時点でシンジを呼ぶ、その繰り返し。
さすがに店の方もこれだけ大量の試着をされたのではたまったもんじゃないだろう。
店員さんの口元も心なしかひきつっており、シンジに対して、もうやめさせてくれという懇願の色を目に浮かべている。
彼は心の中で謝罪した。

《だけどねぇ、僕にもこの二人は止められないんですよ、ごめんなさい。》

そこへ、聞き慣れた声がかかる。


「あら? シンジじゃない?」

《げ...この声は。
 なんでこんな時に限って現れるんだよ。
 なんか、僕の友達って悪いタイミングでばかり現れる様な...》


心の中で悪態はついても、それを口にすることがないのは彼の美点だろう。
あるいは生来の優しさゆえか。
シンジは声のした方向へ振り返り、声の主を確認した。


「なんだ、霧島さんか」

「なんだとは失礼ねぇ」

「ごめん。 で、霧島さんも買い物?」

「まぁね、シンジもそうなの?」


シンジは黙ってある方向を指し示す。
そこには体の前に衣装を合わせ、二人で見せあいながら、あーでもないこーでもないと言っている二人の少女がいた。

《僕に決めさせるんじゃなかったのか?
 まぁ、ほっといてくれるんだったらその方がいいけど。》

そんなシンジにはかまわず、マナはある意味爆弾発言とも取れる言葉を口にした。


「あ、ブラコン娘と赤毛猿の付き添いね」

「その言い方はないんじゃない? 一応うちの妹と...」


シンジとて、二人のことは大切に思っている。
少し憮然とした表情でそう言った。
だが、最後まで言い終わらないうちにマナが口をはさむ。


「そうでしたわね。 大事なフィアンセですもんね〜よかったわね、奇麗なお嬢さんで」


シンジにしてみれば別にアスカのことをそういう風に言おうとしたのではないが、マナにとっては思いっきりの恋敵。
どうしても言葉に棘がある。


「霧島さん、その辺でやめといた方がいいよ、レイとアスカは勘がいいから」

「大丈夫よ、ブラコン娘と赤毛猿ごときには負けないから」


しつこくそう言う表現を使ってくるマナに対し、シンジはつい大声で言い放ってしまう。


「だからやめてって言ってるだろ!」

「なによ! そんなに怒ることないじゃない!」

「ケンカ売ってきたのはそっちじゃないか!」

「「ふんっ!!」」


売り言葉に買い言葉。
シンジは自分に食ってかかってくる少女から目をそむけた。

《なんだってこいつはいつもいつも...》

それはマナがシンジに恋をしているから。
険悪な雰囲気と、先程からの大声に気づいたレイがひょこひょこと二人のそばに寄って来た。


「あれ? マナさん、またお兄ちゃんとケンカしてるの?」


慣れっこになっているのか、どこか呆れながらのレイの言葉。
そしてマナの切り返しもそれを裏づける様な軽い口調。


「出たわね? ブラコン娘」

「悪い? 素直になれないお姉様よりはましだと思うけど?」

「あなたねぇ〜」


《あらら、またレイと霧島さんの口げんかが始まっちゃったよ。
 ま、いいか、ほっとこう、さほど険悪な感じじゃないし、どうせ大したことにはなりゃしない。
 なんだかんだ言って仲いいからな、この二人。》


「ねぇ、シンジぃ? あの二人、いいの?」


いつのまにかシンジのそばに来たアスカが彼の右手を取ってからみついてきた。
シンジの脳裏に幼い頃の記憶がよみがえる...自分の右肩で揺れる赤い髪。

《...懐かしいな。
 ちっちゃい頃も良くこうしてたっけ、けっこうマセてたんだな、僕ら。》

別にマセていなくても、幼い子供同士がこうやってスキンシップをはかるのは良くあること。
ただ年齢を重ねるごとに恥ずかしさが先に立ってくるだけ。


「うん、いつものことだよ、気にしなくていい。 あれでもけっこう仲がいいんだ、大丈夫」

「ふぅん、『ケンカするほど仲たがい』ってやつ?」

「...アスカ、それを言うなら『ケンカするほど仲がいい』だよ」

「う゛...そうなの?」

「うん」


なんだか、妙に納得できる間違ったことわざを使うアスカに対し、シンジは微笑みながら訂正する。
羞恥で赤く染まったアスカはおずおずとシンジに聞いてくる。


「シンジ、アタシに国語教えてくれる?」

「大丈夫だよ、心配しなくても教えてあげるから。 それよりも、あの二人は放っといて、先に服買っちゃおう」

「そうね、シンジと二人きりになれるし!」


そして、アスカはシンジに抱きついてきた。

《また抱きつく...恥ずかしいって。
 でも、アスカのこの笑顔見てたら何も言えないよなぁ。
 口喧嘩している二人に気づかれないうちにこの場を離れるとしますか。》

この構図を見られたら、今現在感じている周囲の視線より何倍も怖い視線が4つの瞳から浴びせかけられるだろう。
シンジはアスカの手を取ると、彼女を即した。


「さ、行くよ」

「うん!」


アスカは単純に喜びで微笑み、シンジはそんなアスカを見てまんざらでもない気持ちになった。

《僕たちって、カップルに見えるのかな?》

見えないと思っているなら大したものだ。




《あれ? お兄ちゃんがいない? アスカもだ。》

「マナさん、ちょっと待った!」

「なによ?」

「お兄ちゃんとアスカがいない」

「え゛、マジぃ?」

「あぁ〜! あんなところに二人でいるぅ〜! アスカったらずるい!! あぁっ、また抱きついた!」

「あんっの赤毛猿!」

「マナさん!」 「レイ!」

「「一時休戦よ!」」















「お待たせいたしました」


ここはイタリアンレストラン。
アスカは別にどこでもいいと言ったのだが、無難なものが食べられるということで、シンジとレイがここにしたのだ。
とは言うものの料理上手の二人のこと、きちんと料理の質は確認してある。
だが、一つだけ気に食わないことがアスカにはある。

《だけど、この目の前にいるマナは余計ね。
 なんでこんなヤツ連れてきたのかしら? シンジったら。》

アスカはまだ良く知らない。
シンジは鈍感だが、誰に対してもとても優しい人間だということを。
だからこそ、学園の女の子に絶大な人気を誇っていることを。
ちなみに、一部の男子にも人気があるらしい...


「これで全部だね? さぁ、食べようか」


注文した料理が全て揃ったことを確認したシンジが、笑って3人に言う。
育ち盛りの少女3人だ、目の前で芳香と湯気を立てている物体を見ると、全てのしがらみがどこかへ行ってしまう。


「「「はーい、いっただっきまーす!」」」


奇麗な唱和の後、自分が注文した料理をそれぞれ口にしていく。
少しの間は皆それぞれに料理に舌鼓を打っていたが、やがてアスカがちらちらとシンジの方を気にしだした。
そして、シンジの顔を覗き込む様にして問いかける。


「シンジぃ、その子羊肉ちょっとちょうだい?」

「ん? いいよ、はい、アスカ」


シンジはもともとあまり食べる方ではない。
別になんということもなく、アスカの皿へと自分の子羊のスモーク・マスタード風味を取り分ける。
幸せ一杯という感じのアスカの顔を見たレイは、つい自分も甘えてしまう。


「あ、お兄ちゃん私も〜」

「当然私にもくれるわよね?」


レイは妹ゆえ気楽に、マナは生来の気の強さゆえに勝手にシンジの皿に手を伸ばす。


「あ゛あ゛あ゛」


泣きそうな顔のシンジ。
いくら小食とはいえ、勝手に自分の皿から持って行かれてはたまらない。

《なによ! レイもマナも! 勝手にシンジのお皿から持ってって!
 シンジが食べる分がなくなっちゃうじゃない!
 ...そうか、ならこうすればいいのよね、見てらっしゃい、二人とも。
 アタシの前でシンジにそういうことをしたことを後悔させたげる。》

アスカはある決心をすると、レイとマナに聞こえる様にと、ことさらに声を張り上げる。


「シンジっ! アタシのフィレステーキ分けてあげるわ!」

「え、いいよ...別に」


アスカの申し出に、シンジはつい遠慮してしまうが、アスカは引き下がらない。
逆にシンジの顔へと自分の顔を近づけて、命令口調で言う。


「いいから食べなさい!」

「...はい」

「よろしい」


シンジの了承を引き出したアスカは、ちらりと横目でレイとマナを見る。
すると、二人は殺気混じりの視線でアスカを見ていた。
ゆらゆらと空間を歪める様に、怒りと嫉妬の波動を持ったオーラが立ち上る。
アスカは自慢げに微笑した。


《ふふん、そんな顔してにらんだって無駄よ。
 続いてセカンドアタック。》


アスカは笑いを噛み殺しながら、自分のフィレステーキをシンジの口の大きさに合う様に切り分ける。
そしてソースをからめると下に紙ナプキンを持ち、ソースが滴れ落ちても良い様にしながらシンジの口元へと運ぶ。


「じゃ、シンジぃ、あーんして?」

「ち、ちょっとアスカぁ!?」


とても甘ったるいアスカの声に、シンジは思わず退いてしまう。
だが、意地と甘えモード全開の彼女に、そんな抗議の言葉が通じるはずがない。


「いいじゃない、別にぃ。 悪いことしてるわけじゃないんだしぃ」


と、更に甘い声。


「い、いいよ、ここに置いてくれれば」

「もぅ、恥ずかしがりやなんだからぁ。 わかったわよ、はい」


アスカにとってはレイとマナに見せつけてやれれば、当初の目的は達成される。
しぶしぶながら、アスカはシンジの言葉に従った。

《さて、効果のほどは?》

内心、ほくそ笑みながらアスカは二人を盗み見る。

「ちょっと、レイ?」

「なに? マナさん」

「いつもこんな調子なの?」

「今日はいつもよりひどいわ」

「そう、あなたも大変ね」

「わかってくれる?」

「今日は気があうわね」

「そうね」

《ふふふっ、青筋立ててるわ、ごめんね、レイ。
 だけどシンジはアタシのものなのよ、ぜぇーったいに誰にもあげないんだから。
 ついでに擦り寄っちゃお〜っと。》


この後、一つのジュースを2本のストローで飲もう等々。
更にアスカは甘えまくり、レイとマナは怒りまくり、シンジは脅えまくった。


《うぅ...レイと霧島さんの目がこあい...》















「お兄ちゃん、これからどうするの?」


昼食を終えた3人はとりあえず本屋へと来た。
アスカへ日本語を教えるための教材を選びに来たのだ、もちろんそれぞれに目当ての本もある。
マナは、これ以上いっしょにいると血圧が上がると言って帰って行ったので、また3人だ。


「うん? 勝手に好きなもの買いに行けばいいんじゃないの? レイ」

「ひっどーい! シンジったら! 大事なフィアンセを置いてどこかに行くって言うの!?」

「いや、だってレイがいるじゃない。 女の子同士なんだから、一緒に行けば...」

「お兄ちゃん、好きな男の人といっしょにショッピングしたいっていう女心がわかってないわねぇ」

「そんなこと言ったってさぁ、レイ」

「とにかく行くわよ! シンジっ!」

「そうよ! お兄ちゃん!」

「はぁ...結局こうなるのか...わかったよ、 二人とも」


というやりとりが行われ、シンジはまた散々連れ回された、ざっと10軒はあちこち回っただろうか。
現在は公園の噴水の脇に設置されたベンチに腰かけ、休憩している。

《そろそろ勘弁してもらおう...》

そう考えた彼は缶ジュースを飲んでいるレイに話しかけた。


「レイ?」

「なぁに? お兄ちゃん」

「もういいよね? 僕は今からバイクショップへ行くから」

「アタシもいっしょに行くわ!」

「じゃあ私も」


バイクショップならこの二人も興味がないはずだから来ないだろうと思ったシンジの願いも空しく、二人の少女はまだまだ彼を開放してくれそうにない。
もっとも、開放されたところで家に帰ればまたからみつかれるわけだが。
あきらめたシンジは二人を連れて行きつけのバイクショップに行くことにした。


「こんにちは」


店に入ったシンジが誰となく声をかける。
すると、常連客がくつろげる様にと設けられたカウンターの端に座っていたロン毛の青年が振り向く。


「よっ、シンジくん。 今日はなんだい?」

「まぁ、なんとなく寄ってみただけですよ」


そう答えるシンジの背後できょろきょろと周囲を見回しているアスカの姿が彼の目に入った。


「ん? シンジくんがレイちゃん以外の女の子を連れてくるなんて珍しいな」

「まぁ、たまにはこんなこともありますよ、青葉さん」


どこかからかう様な彼−青葉シゲルの声にシンジは苦笑して答える。
シンジにとって、ここは唯一女の子から離れてくつろげる場所だったのだから。


「それにしても可愛い女の子じゃないか。 やっぱりもてるな、シンジくんは」

「そんなことないですよ、この子はアメリカにいた時の幼なじみですから」

「シンジ! 違うでしょ!」


とりあえずの言葉でその場をとりつくろうとしたシンジに対し、彼女はキッとシンジをにらみつけてそう言った。
前々回のエピソードからも判る様に、アスカにとってはシンジのフィアンセであることは、何ものにも代えられない大切な事実。

《あ、やば...アスカが怒った。
 ただあまり大げさにしたくないだけなのにぃ〜(泣)》

シンジとて、婚約していることは否定していない。
ただ、自分自身の答えを時間をかけて明確にしたいだけ。


「でもね、実はこの二人婚約してるのよ、青葉さん」


相変わらず、にたりと笑いながらレイが青葉に向かってそう言う。
青葉はスッと目を細めると、剣呑とした視線でシンジを見る。


「ほ〜う、シンジくん...それは聞き逃せないなぁ...」

「う゛...」

《レイ〜どうしてそう爆弾ばっかり落とすんだよぉ〜
 特に青葉さんはやばいってぇ。》

「ふふふふふふふふふふふふふ...シーンージーくーん...」

《う...目がイっちゃってる...》


もてない男のひがみか、シンジに向かってゆっくりと立ち上がる青葉。
黙っていればいい男なのだから、その性格を直せばそれなりにもてるだろうに。


「シンジ! ほら、さっさと行くわよ!」

「(なぁーいすアスカぁ!)う、うん、そうだねアスカ」


不機嫌な顔をしたまま、アスカはシンジの腕を引っ張ってその場を離れようとする。
とは言うものの、別にアスカはシンジに助け船を出したわけではない。
単純にこれ以上おかしなヤツを見ていたくないだけだ。
渡りに舟とばかりにシンジはひきつった笑顔ながら、すたこらさっさとアスカと逃げて行く。


「ちっ」


当てが外れたレイは悔しそうだ。


しばらくの間、シンジはアスカと二人で小物を見て回る。
レイはサービスカウンターでコーヒーを貰って、時折寄ってくる男性客を適当にあしらいながらゆっくりと飲んでいる。
アスカは別にバイク関係には興味がないので、ただシンジの右手に腕をからめていっしょに行動しながら、時折質問をしてくるだけ。
そのうちに、ふと何かを思い付いたらしく、小走りに走って行った。


「ねぇ、シンジぃ?」

「どうかした? アスカ」

「これもいっしょに...いい?」


スペアシールドとグローブを持って、レジに行こうとしていたシンジの所にアスカが戻ってきた。
その手に抱えられているものを見れば、アスカが何を言わんとしているかぐらいはシンジもわかる。


「ん...」

「...ダメ?」


ちょっと眉をひそめたシンジに勘違いしたらしく、アスカが悲しい顔をする。
まるで捨てられた子犬の様に、心細い顔。

《違うよ、そういう意味じゃない。》

シンジがそっとアスカの手を取る、その瞬間、アスカの体がビクッとふるえた。


「アスカ、おいで」

「え?...うん...」


優しいシンジの言葉にも、どこか不安げなアスカ。
シンジは安心させる様に、微笑みながら再度言葉をかける。


「そんなに心配しなくてもいいよ、別に怒ってるわけじゃないんだから、ね?」

「じゃあ、なんなの?」

「まぁ、いいからさ」


シンジはそのままアスカの手を引き、二階へと上がっていく。


「これなんかどうかな?」


陳列棚から、シンジは一個のヘルメットを取り上げ、アスカの目の前に差し上げてみせる。
アスカは怪訝な顔をして、自分の右手を上にあげる。


「え? ヘルメットなら今アタシが持ってきたじゃない?」

「だから、半キャップなんかじゃ危ないでしょ? 顔に傷でもついたらどうするの? 石だって飛んでくることがあるんだよ?」

「シンジ...」


微笑みながらのシンジの言葉に、アスカは泣き出しそうな顔になる。
いくら自分の背後に隠れるとはいえ、道路ではなにが起こるかわからない。
バイクに乗る時はフルフェイスの方が安全だから、そう考えたシンジは彼女にフルフェイスのヘルメットを奨めた。
結局、アスカが選んだのは真紅のヘルメット、情熱的な彼女にふさわしい色だろう。



《やっぱりお兄ちゃんは抜けてるわね》

帰り道、山の様に荷物を抱えた上に、ヘルメットまで増やしたシンジを見ながら、レイはそう思ったらしい。











後悔という名の後書き、もしくは後あがき。(爆)

今回は甘えん坊アスカ様がフルスロットルで走ってますね。(^^;
しかし、レイがブラコンと言うより、おっさんミサトと化してますなぁ。( ̄_ ̄;)

それと、感想を下さるみなさん(ありがたいことです)にお願いがあります。
備えつけのフォームを利用される方に多いのですが、返信用のメールアドレスを記入されていない方がいらっしゃるんです。
こちらとしてもお礼のメールは返したいので、是非ともメールアドレスは記入して下さる様にお願いします。

でわでわ。

〜 サブタイトルはAnnaの同名の曲 ”SUNDAY MORNING HAPPY!”より 〜

1998.11.24 おかやん



まんた☆彡からの一言

ゼルダ休み中です。
感想はちょっち待ってくださいm(_ _)m



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ここから戻れるわよ