2015.9.4 − 12:38
日本−第3新東京市−高等部1-C


「ありゃ? センセはどないしたんや?」

「どうした? トウジ」

「いや、センセがおらへんねや」

「ふーん。 霧島、シンジはどこに行った?」

「(ぷるぷるぷる..)シンジぃ〜? シンジならシンジのフィアンセを名乗るいけすかない赤毛女とどこか行ったわよ!!」

「「...へ?...」」

「フィアンセやてぇえええええ!?」

「あのシンジがかぁあああああ!?」

ケンスケ!」 「トウジ!

(こっくり)

行くぞ(で)!!


with all one's heart
#5 ”MISSING PIECE”



同時刻
高等部屋上


教室から逃げ出してきたシンジたちは屋上へとやってきた。
まだ日差しが強いため、扉近くの影になっているところへ腰を落ち着けている。
幸い、というか他には誰もいない。


「まったく、勢いとはいえ、気をつけてよ、アスカ」

「....ごめんなさい...シンジを他の女に呼び捨てにされて..つい...」

「マナさんてば、いつもお兄ちゃんにはあんな調子なのよねー」

「そうだよね、なんでだろ?」

「..鈍感..」


《まったく気づいてないのよねぇ...マナさんがお兄ちゃんのこと好きだってこと。
 むきになるのも愛情表現なのに。
 ...でも、これから楽しみね。(にやり)》


レイのつぶやきと妖しい笑いには気づかないまま、シンジは目の前でしょんぼりとしているアスカへ再度声をかけた。


「さ、食べようよ。 アスカもいつまでも落ち込んでないで。 僕のことを思ってくれてることはわかってるから」

「うん! ありがと、シンジっ!」


シンジの言葉にアスカは勢いよく顔を上げると、にこりと笑った。
まったく邪気が感じられない笑顔、シンジもつい笑みがこぼれてしまう。

《おーおー、さっきまで泣いてたカラスがなんとやら、か。
 お兄ちゃんも、意識せずにそういうツボをついたことを言うから始末に終えないのよねー
 たぶんマナさんもなにか言われたんだと思うけど、お兄ちゃんが憶えてるわけもないか。》

マナとシンジの間に何があったのか? これは二人の高校入学時にさかのぼる。
入学式の当日、校内で迷子になったマナをシンジが体育館まで案内したことが、マナがシンジに惚れるきっかけとなった。
シンジは中等部からこの学園に在籍しており、学園内の建物配置は熟知している。
だから、迷うことなくマナを体育館まで案内することができた。
加えて、父親譲りの長身と物静かな雰囲気から、マナはシンジのことを上級生だと思いこんだ。
そしてシンジはその鈍感さゆえ、マナを案内するとお礼の言葉も聞かずにさっさとどこかへ行ってしまった。
入学式が終わり、マナがいつか探し出してきちんとお礼を言おうと思いながら教室へ入ると、自分の目の前にシンジが座っているではないか。
ゆえに、マナにとっては運命の出会いだとしか思えなかったのだ。


「はい、お兄ちゃん、お弁当」

「ありがと、レイ」


レイが今まで渡しそびれていた弁当をシンジに渡す。
先程までのドタバタ騒ぎで空腹を忘れていたシンジの胃袋がとたんに騒ぎ出した、あわててシンジは包みを解く。
そんなシンジを微笑みつつ横目で見ながらアスカがレイに言う。


「レイの料理っておいしいのよねぇ。 ユイおばさまと同じ味つけだし」


ドイツでユイの手料理をご馳走になり、いっぺんでそのとりことなったアスカの言葉。
思わず弟子入りを志願してしまったほどだ。


「そりゃそうよ、親子だもん。 実はお兄ちゃんもねぇ、私と同じくらい料理上手いのよ」

「そうなんだ、やっぱりすごいわね、シンジって」

「でもねぇ、お母さんは別格として、私がお兄ちゃんにかなわないものが3つだけあるの」


これほど料理が上手いレイがかなわないものなどあるのだろうか?
そう思ったアスカは素直に聞き返した。


「なんなの? それって」

「あのねぇ、カレーとから揚げとハンバーグ」

「はははははんばーぐぅ!?」

「ん? どうかした? アスカ」


レイの問いかけにも答えず、アスカは目をスッと細めると、ゆっくりとシンジの方を見た。

《う...なんか目つきがこあいよ、アスカ。》

まるでエクソシストのワンシーンを観るかの様なアスカの動き。
レイの恐怖も当然だろう。


「シンジっ!!」

「んぐっ!...」


いきなり大声で呼ばれ、喉に食べ物をつまらせたシンジが胸をあわてて叩く。
青ざめた顔が次第に赤くなっていく。


「(どんどんどん)..ぷはぁ..どうしたの? アスカ、大声出して?」


きょとんとしたシンジの言葉にアスカの反応はと言うと。


「アタシにはんばーぐ食べさせて!」


なんだか、つながりがまったくない言葉だ。
だから、シンジも間の抜けた答えしかできない。


「へ?...って言ったって今日のお弁当には入ってないよ?」

「ちっがぁーう! シンジが作ったはんばーぐをアタシに食べさせて欲しいの!」

「......?」


あいかわらずシンジはきょとんとした顔のままだ。
箸を軽くくわえたまま、自分に向かってびしっと指を突きつけているアスカの顔を見つめている。
そんな二人を見ながらレイはこう思う。

《あ〜あ、お兄ちゃん状況を把握してないわ、がっついて食べてたもんね。
 でも、どちらにせよいっしょか...このアスカの豹変ぶりじゃねぇ。》


「...ダメ?(うるっ)」


何も言わないシンジの態度を拒否と受け取ったか、アスカは寂しげに問いかける。
その瞳は微かに潤みはじめていた。


「え、あ、いい...けど..別に..はい」


まだ、釈然としないままだが、別に断ることでもないのでシンジは了承した。
途端にアスカはにぱっと笑うと、両手を挙げて喜ぶ。


「やったー! はんばーぐだぁ!!」

「「???」」


《なんなのよ、いったい?》

レイの思いはシンジも同じ。
隣に座っているレイを見ると、恐る恐る問いかける。


「レイ...?」

「なに? お兄ちゃん」

「アスカってば、どうしたの?」

「私に聞かないでくれる?(にっこり)」

「...はい(恐)」


ユイそっくりのレイの微笑み。
この顔のレイに逆らうと後が怖い、シンジは素直に引き下がった。
そんなシンジに顔をだらしなくゆるめたアスカがせまってくる。


「んふふふっ、シぃンジぃ〜」


ものすごく甘ったるい声。
アスカの信奉者が聞いたら、昇天してしまうかもしれない。
だが、彼女がこの声を出す相手はこの世でただ一人。


「ん?」


そのただ一人の少年は、相も変わらず間抜けな答え方をする。
もっとも、彼女にとっては、そんなことはどうでもいいらしい。
箸で卵焼きをつまむと、シンジの顔へと近づける。


「はい、あーんして、これはお礼(はぁと)」

「い、いや...それはちょっと...」

「アタシじゃいやなの? ちっちゃい頃はいつもこうしてたのに(うるっ)」


また、アスカの瞳が潤みはじめる。
子供のころの二人は、お互いに食べさせあうことが良くあった。
それは両親が話のタネにとやらせたことだったのだが、この二人はなぜだかそれが気に入っていた様だ。
だが、シンジにとっては成長するとさすがに恥ずかしいらしい。


「いや、そうじゃ..ない...けど..恥ずかしいから」

「いいんじゃなぁい、お兄ちゃん? 婚約者なんだし(にやり)...アスカだけにやらせる気もないし


シンジには聞こえない様に、レイは最後のつぶやきを口にした。
その声はアスカにも聞こえなかったらしい、逆に応援の言葉と取ったアスカは明るい顔になった。


「そうよ、シンジ! はい!」

「う、うん」


シンジは口を開け、アスカは恥ずかしそうに、けれどもうれしそうにシンジの口へと卵焼きを運ぶ。
この二人は自分たちの世界に入ってしまい、屋上へと登ってくる足音に気づいていない。
レイは一人ほくそ笑んだ。

【ダダダダダダダッ..ガチャッ】

(ぱくっ)


扉が開くのと、シンジが卵焼きを口にしたのはほぼ同時。
正確には、扉が開くのが一瞬先か。
そして、2バカがきょろきょろとシンジを探しながら名前を呼ぶ。


「センセ!」 「シンジ!」


呼ばれた当人は、アスカが差し出した箸をくわえたまま固まっている。


《うーん、絶妙のタイミングね、さすがお兄ちゃんの親友。
 1.2.3.せーの。》


「「イヤーンな感じ!!」」


レイの思惑通り、二人を見た2バカがお約束のセリフを放った。















「...というわけなんだ」


さすがにキスして思い出させられたことは伏せたが、昼食を食べながら、シンジはトウジとケンスケに大方の事情を説明した。
それでもシンジの鈍感さを考えると、トウジは合点がいかないらしい。


「ふーん。 で、センセは納得しとるんかい?」

「納得も何も、僕がそう言ったのは事実だし...」

「さよか」


シンジが押しに弱いことを知っているトウジは、呆れた様にそう言った。
だが、ケンスケは違う、心底うらやましそうだ。


「ったく、シンジはいいよなぁ。 この子といい、レイちゃんといい」

「霧島も忘れたらあかんで」

「あぁ、そうか」


と、トウジの言葉にケンスケがうなずく。


「なんでそこで霧島さんが出てくるんだよ?」

「「はぁ...」」

《なんでそこでため息をつくんだ?
 大体霧島さんは僕にいつもからんでくるんだぞ?》


自分一人が怪訝な顔をしていることにこの鈍感野郎は気づいていない。
アスカは先程のマナとのやりとりから、彼女がシンジに惚れていることに気づいている。
そして、この愛する朴念仁をうれしげに見やった。


「お前、まだ気づいとらんのか?」

「だからなにが?」

「かぁ〜っここまで鈍いとは思わんかったわ!」

「ま、シンジだからな」

「トウジに言われたくないよ、ヒカリちゃんはどうしたんだよ?」

「ん? あの料理がうまいねーちゃんがどうかしたんか?」

「「「はぁぁ〜っ」」」


いつのまにか話の焦点が変わった。
シンジとケンスケ、レイのため息がシンクロする。

《ヒカリちゃんもなんでこんなの好きになったんだか。
 ...そういえば、アスカもなんで僕なんか好きになったんだ?》

自分の鈍感さを棚に上げ、シンジは自問自答する。
もっとも、答えが出る様なら"にぶちん"呼ばわりされることもないはずだが。
そしてこの辺には人一倍気が回る二人がぼそっとつぶやく。


「しょせんトウジか」

「...ヒカリも大変だわ」


再度自分の親友の名前が出てきたことで、アスカは疑問が生じたらしい。
レイにそっと耳打ちする。


「どういうこと? レイ」

「ん〜..後で教える...」


アスカがまた姿勢を正したのを見計らって、ケンスケがアスカに問いかける。


「ところで惣流さん? こんな鈍感のどこがいいわけ?」

《なんかむかつく言い方だな。
 ケンスケぇ〜覚えてろ。》


と、シンジは思ったのだが、アスカの答えは恋する乙女のそれであった。


「え、いや、あの、その....全部...(真っ赤)」

「「「「......」」」」


全員沈黙...視線が宙をさまよう...
たっぷり1分近くの時が流れただろうか。
アスカは恥ずかしそうにうつむき、シンジは空を見上げながらぽりぽりと頬をかいている。
そしてレイは件のアルカイックスマイルを浮かべていた。
ただし、こめかみが少しひくついているが。


「聞きましたか? 相田さん?」

「ええ、聞きましたよ、鈴原さん」

「「シンジ! お前はやっぱり幸せ者だ!」」


2バカがにやにやしながらシンクロした。
そして、負けを認める。


「わかった! ワイらはもう何も言わん! 好きにせい、センセ!」

「というか、言うだけ自分がむなしい」

「私は言うわよ(にやり)」


先程までのアルカイックスマイルはどこへやら、まるでマッドな科学者が最高の実験素材を見つけたかの様な怪しい笑み。

《レイ...こあいよ、その笑みは。
 なんでこんなとこだけ父さんそっくりなんだよー(泣)》

そんなシンジにはかまわず、2バカが大声で叫ぶ。
この声には多分にやっかみが混じっている。


「「シンジ! 惣流を泣かすなよ!!」」

「わかってるよ」


自分をにらみつける二人に苦笑しながらも、シンジは素直にそう言った。
なぜなら。

《だってアスカは泣き顔よりも笑顔の方がいい。》

と思ったからだ。
どうしてそれを本人に言ってあげないのだろうか。


「レイ、いい人たちね、シンジの友達って」

「そう思う?」

「あったりまえでしょ!」

《後で後悔しなきゃいいけどな。》


アスカとレイの会話を聞いて、シンジはそんなことを考えてしまう。


「さぁ、そろそろ教室へ戻ろう」

「そうだな」

「わかった、お兄ちゃん。 行こう、アスカ」

「うん!」


廊下でアスカたちと別れた後、ケンスケがシンジに小さな声で問いかけてきた。


「なぁ、シンジ? 気づいてるか?」

「うん? なにがだよ? ケンスケ」

「いや、いい...」


やっぱりそうか、と思いながら彼はそれから先を口に出すことを止めた。
どうせ言っても無駄だ、と考えたせいもある。


「なんだよ? 変なヤツだな」


シンジのその言葉に苦笑すると、ケンスケは口に出すことがなかった言葉を心の中でつぶやいた。


《お前が惣流を見る時の目、あんな優しい目はレイちゃん以外に向けたことがないんだぞ。》


カメラマンの彼は、他の連中が気づかなかったことを見抜いていた。















From:Asuka Langley Sohryu
To:Rei Ikari
Date: Fri, 04 Sep 2015 13:28:08 JST
Subject: ねぇどういうこと?
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ねぇねぇ、ヒカリも大変ってどういうことなのよ?

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From:Rei Ikari
To:Asuka Langley Sohryu
Date: Fri, 04 Sep 2015 13:30:40 JST
Subject: それはね
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あのね、ヒカリって鈴原さんが好きなのよ。
でもね、鈴原さんも自分自身のことに関してはお兄ちゃんなみに鈍感なの。
んで、ヒカリも恥ずかしがりやだから、なかなかうまくいかないの。

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From:Asuka Langley Sohryu
To:Rei Ikari
Date: Fri, 04 Sep 2015 13:33:36 JST
Subject: そうなんだ
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じゃあ、手伝ってあげなきゃいけないわね。

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From:Rei Ikari
To:Asuka Langley Sohryu
Date: Fri, 04 Sep 2015 13:34:40 JST
Subject: でもさ
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鈴原さんって硬派を自認してるからねぇ。
外堀から埋めていかないと。
ある意味、お兄ちゃんより手強いよ。

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From:Asuka Langley Sohryu
To:Rei Ikari
Date: Fri, 04 Sep 2015 13:37:33 JST
Subject: じゃあさ
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硬派とか外堀から埋めるっていうのは意味わかんないけど。
とりあえず、みんなでお弁当食べるとかいうのはどうかな?
んで、徐々に距離を縮めていってさぁ。

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From:Rei Ikari
To:Asuka Langley Sohryu
Date: Fri, 04 Sep 2015 13:38:42 JST
Subject: いいわね
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わからない日本語はお兄ちゃんに教えてもらいなさい。

その作戦、のった!
ヒカリも料理上手だから、いずれは鈴原さんの分のお弁当作る様にしむけるっていうのはどう?

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From:Asuka Langley Sohryu
To:Rei Ikari
Date: Fri, 04 Sep 2015 13:40:41 JST
Subject: じゃ、そうしよう
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いいわね。
で、ひとつお願いがあるんだけど。
シンジのお弁当、アタシに作らせてくれない?
ユイおばさまにシンジの好みは教わってきたから。

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From:Rei Ikari
To:Asuka Langley Sohryu
Date: Fri, 04 Sep 2015 13:43:40 JST
Subject: ...
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...やだ。

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From:Asuka Langley Sohryu
To:Rei Ikari
Date: Fri, 04 Sep 2015 13:44:07 JST
Subject: むか!
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むっきー!
いいじゃないのよ!
アタシは9年間待ちつづけたんだから!

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From:Rei Ikari
To:Asuka Langley Sohryu
Date: Fri, 04 Sep 2015 13:45:06 JST
Subject: へへへっ
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いいじゃないの。
結婚したらいくらでもお兄ちゃんのためにお料理できるんだから。

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《あれ? 返事がこない。
 あらら、アスカったらにやにやしちゃって、お兄ちゃんとの新婚生活でも妄想してるのかしら?》

レイの視線の先には、ほお杖をつき、頬を染めながら宙を見つめているアスカがいた。

その頃シンジは次々と舞い込む詰問のメールと、刺す様な視線にひたすら耐えていた。
アスカの発言は燎原の火のごとく、学園全体に広がって行くことになる。














「おいしかったぁー..ほんと、料理上手ね、シンジ」

「そう? アスカは肉料理の本場から来たから口に合うか不安だったけど」

「ううん、シンジがアタシのために作ってくれたものだし...でも、ほんとにおいしかったけど」


どこか自信がなさそうなシンジの言葉に、アスカは異を唱えた。
そしてまだ記憶に鮮やかなシンジ特製のハンバーグの味を脳裏に浮かべる。


「他にもバリエーションがあるから、また作ってあげるよ」


自分の料理をうれしそうに食べてくれ、なおかつおいしいと言ってくれる目の前の少女を見つめ、シンジは次のハンバーグは和風にしてみようか? などと考えている。


「うん! 楽しみにしてる!」


確かにそれも楽しみだが、いつ自分が作った料理をシンジに食べてもらうか。
アスカはそんなことを考えていた。
だからその頬はほのかに染まっている。


「でも、どうしてハンバーグで目の色変えたわけ? アスカ」

「うーん、大好物なのよねぇ、昔っから」


夕食を食べた後、先日と同じ様に二人はベランダに出て夕涼みをしていた。
レイは『愛しあってる二人のお邪魔はできませんからー(にやり)』とか言ってリビングでTVを見ている。

《まったく、余計なことに気を回して...いや、あのレイがそんなことを考えるわけがない、なにかたくらんでるかも。》

と、シンジは思ったが、今日はただ単に見たいドラマがあるだけのことで、別に他意はない。
頭を一振りしてそんな考えを振り払うと、隣にいるアスカを黙って見つめる。

《...こんなに奇麗になるなんて、わからないもんだな。》

どこか遠くを見ていたアスカだが、シンジの視線に気づくと怪訝な顔をして問いかける。


「ん? アタシの顔になにかついてる?」

「いや、奇麗になったなぁって...それだけ」

「え...やだ..ばかぁ...(真っ赤)」


正直なシンジの言葉に頬を染め、アスカがうつむくと、その長い髪がさらっと顔の方に流れた。


「シンジぃ...ほんとに..そう思う?」


おずおずと、アスカが上目づかいにシンジに聞いてくる。
この表情に勝てる男はいないだろう、シンジも白旗を揚げた。


「もちろん」


ただ一言ながら、彼女にとっては百万の言葉よりもうれしい一言。
自分が奇麗になったのは、目の前にいるこの少年のためなのだから。


「へっへっへぇ〜..じゃ、そうさせた償いをしてもらおうかしら?」

「償いって?」

「シンジはアタシに抱きつかれるのっ!!」


そう言ってアスカはシンジに抱きついてきた。
アスカの身体から立ち上る甘い香りがシンジの鼻孔をくすぐる。

《いい香りだ...レイとはまた違う、僕を慕ってくれる女の子の匂い。》

そして昼間からの疑問をシンジは口にする。


「アスカ? なぜ僕を好きになったの?」

「そんなことわかんないわよ...気がついたら好きだった...それだけ」

《男と女はロジックじゃない...か。
 以前誰かさんが言ってたな。》


恋をするのに理屈や理由が必要だろうか?
スタンダールの言葉に『雷撃の恋』というものがある。
出会った瞬間、まるで雷に打たれたかの様に恋に落ちてしまうことだってあるのだ。
言葉にすることができない恋、それこそが真の恋かもしれない。


「シンジぃ...アタシ、今とても幸せなの....」


シンジは何も言えない、ただあの頃と同じ様に髪を梳いてあげるだけ。
彼の指先にアスカの肩の震えが伝わってくる。


《幸せだとか言ったくせに...泣いてるのか?》


涙は悲しい時にだけ出るわけではない。
本編でシンジがレイに語った様にうれしい時だって流すことはできるのだ。


「やっと...やっと...9年間なくしてた心の一部が帰ってきたの...もう..シンジをなくしたくないの....そばにいて欲しいの...ひっく..ぐすっ...」


彼女にとって、幼い時に失った心の一部。
それは目の前にいる少年。
そして彼にとってもそのことは同じこと、意識して追い求めてきたか、無意識のうちに待ち続けてきたかの違いだけ。

《心の一部...か、アスカは僕にとってもそうなのか?
 アスカが特別な存在なのは事実だし...
 やめた、これ以上考えてもしょうがない、あの頃と同じ様に接してあげればいいんだ。
 答えはそのうち出るだろう。》

その鈍感さゆえ気づいていないが、既に答えは出ている。
この言葉がその証し。


「アスカ、大丈夫だよ、僕はいつでもそばにいるから」

「...ううっ..えぐっ...うわぁああん....シンジぃぃぃ....」

《好きなだけ泣けばいい、あの頃と同じ様に受け止めてあげるから。》


左手でアスカを抱きしめたまま、彼は優しく髪を梳いてあげた。












後悔という名の後書き、もしくは後あがき。(爆)

なんか今回まとまりがないっすなぁ。(^^;
いや、いつもないけど。(爆)
というわけでケツまくって逃げる!! ( (((( ヽ(;^^)/

〜 サブタイトルは氷室京介の同名の曲 ”MISSING PIECE”より 〜

1998.11.06 おかやん



まんた☆彡からの一言

ここにも妄想をするアスカさまが…。

乙女チックな妄想をしながらニヤ付くアスカさまってなんだか可愛い。



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ここから戻れるわよ