2015.9.2
ドイツ−ベルリン−ラングレー家
「ちゃんと会えたかな?」
「大丈夫でしょう、たぶん。それに、ユイの子供たちはしっかりしてるはずですし」
「そうだな...」
「あの子の幸せを願うなら、見守ってあげましょう。そう決めたじゃないですか」
「それもそうか、小さい頃の二人はまわりがうらやむほど仲がよかったものな」
「そうですよ、あなたも嫉妬してたぐらいなんですから」
「......(汗)」
「男親っていうのはそんなもんですけどね(にっこり)」
2015.9.2 - 12:43
日本−第3新東京市−中等部2-A
お昼休み。この退屈な学校生活の中での密かな楽しみ。
少なくとも私にとっては絶対に、だ。
だけどねぇ、今日は騒がしくってやんなっちゃう。
その原因は、そう、転入生。
「ねぇ、惣流さん、ドイツってどんなとこ?」
「そうねぇ...」
当たり障りのない会話から。
「つきあってる人はいるの?」
「ふふっ、ないしょよ」
という、年ごろの女の子としては当然の疑問まで。
そして聞き耳を立てている男子たち、まるでミーアキャットの集団みたい。
「そういえばさぁ、アスカってどこに住んでるの?」
午前中に意気投合した私たちは既に名前で呼び合うことにしたので、ヒカリも私もアスカと呼んでる。
ヒカリの問いにアスカの答えはというと。
「うん、今朝まではホテルにいたんだけど。今日からは日本の知り合いの所にごやっかいになることになってるの」
「へぇ〜そうなんだ、いい人たちだといいわね」
「うん...それは大丈夫だと思う」
なぜかアスカはうつむいて赤くなった、なんで?
「これだよ、噂の転入生」
「ほう、どれ、見せてみい」
ケンスケはどうやら休み時間中に中等部まで行って写真を取ってきたらしい。
トウジも自分たちの商売に関ることだけに真剣だ。
いや、ただのやじうま根性か、まったく...ヒカリちゃんはどうするんだよ。
「シンジ、見ないのか? これはすごい上玉だぞ」
『上玉』ってねぇ...ケンスケ、時代劇じゃないんだから。
「あ、うん、レイから聞いて知ってるよ。 美少女だってことは」
「いや、これは普通の美少女じゃないぞ。 いいから見てみろよ」
そう言って、ケンスケは僕にデジタルカメラのモニターをつきつける。
その瞬間、珍しく僕の思考も固まってしまった。
そこに映っていたのは本当に美少女と呼ぶにふさわしい少女だったからだ。
だけど、なぜだろう...どこか懐かしい感じがする。
「お、シンジが反応するのも珍しいな」
「そやな、いつもレイちゃんを見とるせいか、ちょっとやそっとじゃ反応せぇへんからな」
「そんなんじゃないよ...ただ」
「「ただ、なんや(だ)?」」
「うん...なんだか懐かしい感じがして...」
「「なんだ(や)、そりゃ?」」
「ごめん、うまく言えないや」
「だけど、シンジが反応するんなら本物だぞ。 なんせ、あのレイちゃんと暮らしているヤツだからな」
「そやな」
「勝手なこと言うなぁ、二人とも」
そこで僕らは声を立てて笑った。
僕の妹レイはこの学園一の美少女と言われている。
もともと母さんそっくりで整った顔だちの上、華奢ながらも均整の取れたプロポーション。
そしてアルビノゆえの青みがかった銀色の髪と紅い瞳と白い肌。
まるで妖精の様だと人は言う。
「ところで、シンジ、 レイちゃんに頼んでくれたか?」
「うん、メールで言っといたよ」
「そうか、サンキュ。 予約も殺到してるし楽しみだな、あの美少女の写真の売り上げが」
「相田屋、お主も悪よのぅ」
「そういうお代官さまこそ」
「「ぐっふっふっふ...」」
いつもながら、この瞬間だけは友達であることを後悔する...
さぁ、授業も終わった。
後はお兄ちゃんと買い物に行って帰るだけね。
ん、なんだか騒がしいなぁ? ヒッ!? なんなのよぉ?! この血走った目の集団は!!
「惣流さん! いっしょに帰りましょう!!」
「いや、僕たちといっしょに!!」
「何言ってんだ! 惣流さんは俺達と帰るんだ!!」
ア、アスカ...?
え、うつむいて震えてる...ひょっとして恐くて泣いてる...の?
「うるっさぁーい!! アタシは好きな人がいるのよ!! あんたたちなんかにつきあう気はないの!!!」
げ...驚いた。
あ、ずかずかと帰って行く。
あっちゃあ〜みんな呆然としてるわ、しょうがない。
「んじゃ私も帰るね。ばいばい、みんな」
呆然としているクラスメートを尻目に、アスカの後を追いかける。
廊下に出てきた人たちが邪魔でなかなか追いつけない。
ようやく、げた箱の所で追いついた。
「アスカ!」
「あれ? どうしたの、レイ?」
「...はぁ..はぁ...やるわねぇ、びっくりしてたわよ、男子」
「あぁ、あれね。 ほんっとどうしようもないわねぇ、男って」
「そうね、校門までだけど、いっしょに帰りましょ」
「校門まで...って?」
「うん、お兄ちゃんが待ってるの。 いっしょに買い物に行くんだ」
「そう...いいわね。 レイのお兄さんならいい男なんじゃない?」
「ん〜そのせいで苦労してるんだけどね。 さ、行きましょ」
「うん!」
そして私たちは駐輪場に寄り、校門へと歩いて行った。
けど、お兄ちゃんはまだ来てない様ね、まだ帰ってる人もまばらだし、ちょっと早く来すぎたかしら?
「ん〜残念。 お兄ちゃんまだ来てないや」
「そうなの? いいわ、後で会えるだろうし。 じゃ、アタシはここで、じゃあね、レイ」
「うん、ばいばい、アスカ」
ん? 『後で』? やっぱり変な日本語使うわねぇ。
そして10分ほど経っただろうか。
「レイ!」
「あ、お兄ちゃん! 鈴原さんと相田さんも、こんにちは」
「こんちは、レイちゃん」
「よう、レイちゃん」
「ちょっと遅かったわね、さっきまで噂の転入生といっしょにいたのに」
「「なに!そうだったの(ん)か!!」」
「ちくしょう、おしいことをした! ところでレイちゃん、頼んでみてくれたかな?」
「ん〜撮るのはかまわないって言ってたよ、条件は私と同じでいいんでしょ?」
「そこまで話を進めててくれたか、ありがたい。 さすがレイちゃん」
「へへぇ〜今度パフェおごってね」
「わかってるよ、レイちゃん」
そう、相田さんは写真の売り上げの20%は被写体である私たちに還元してくれるのだ。
その他にも、ことあるごとに気を使ってくれるのでそんなに評判は悪くない。
「じゃ、僕らは買い物して帰るから。 じゃあね、トウジ、ケンスケ」
「ばいばい、鈴原さん、相田さん」
「あぁ、じゃあな、シンジ、レイちゃん」
「おう、じゃあな、二人とも」
買い物を終え、僕たち兄妹は自転車とバイクを押して家までのゆるやかな坂道を登っていた。
今日の買い物はなんのことはない、たまには夕食の材料の買い出しにつきあえということだった。
道の向こうからトラックが走ってきたので、僕がレイの前に出る様にして道を譲る。
「また引っ越しかなぁ? お兄ちゃん」
「そうかもね、来年はここも遷都されて首都になるっていうから、もっと人が増えるんじゃないかな」
「そうね。 そういえばお兄ちゃん?」
「なに? レイ」
「今日来た転入生のことなんだけど、もう見た?」
「うん? ケンスケが撮ってきた画像は見たよ。 奇麗な子だね」
「やっぱり? 早いわねぇ、相田さん。 それより珍しいね、お兄ちゃんが奇麗だなんて言うのって」
僕だってまったく女の子に興味がないわけじゃないし、ちっちゃい頃はよく近所の女の子と遊んでいた。
苦笑しながら言葉を返す。
「まぁ、そう言わないでよ、レイ」
「それでね、その子ドイツから来たんだけど、好きな人がいるらしいの」
「へぇ、ドイツにいるのかな?」
「あ、それ聞くの忘れてた」
レイは舌をぺろっと出しながら『えへへ』と笑う。
その顔は兄である僕から見ても魅力的な笑顔だった。
「レイも早くそんな相手を見つけないとね」
「むぅ〜お兄ちゃんを超える男の人なんてそうそういないもん! ふんだ、お兄ちゃんのバカ!」
まったく...レイのブラコンにも困ったもんだ。
マンションに着いた僕たちは駐輪場にバイクと自転車を停め、エレベーターに乗る。
レイはさっきの会話が原因でそっぽを向いたまま。
やれやれ、この分じゃ僕のケーキもよこせと言いそうだな。
「レイ、そろそろ機嫌なおしてよ」
「お兄ちゃんのケーキも食べていい?」
ほら、やっぱり。
「はいはい、わかりました」
「やったぁ!」
「ひょっとして、狙ってたな? レイ」
「へへへぇ」
「ふぅ...」
この辺はレイにはかなわない、きちんと僕の弱点をついてくる。
家に着いた、レイがスリットにカードキーを通し、パスコードを入力する。
うれしそうな顔をしているのはケーキのせいだろう。
【パシュ】
シリンダーを圧縮していた空気が抜け、ロックが外れた。
レイがドアを開けて先に家に入る、そしていつもの習慣。
「「たっだいまー!」」
「......なっ...なによこれぇ!?」
「どうしたの? レイ?...ってなんだこりゃあっ!?」
帰宅した僕たちを待っていたのは、玄関に山と積まれた段ボール箱だった。
そしてもうひとつ。
「おかえりなさぁい!」
聞き覚えのない声...いや?...どこかで聞いた様な...はて?
そしていつも聞いている声。
「えぇっ!? なんでアスカがうちにいるのぉ!!」
「へ?...って聞いてなかったの? レイ?」
玄関で固まっている僕たちと家の中にいる女の子。
あれ? この子は確か...転入生じゃないのか?
「...どどどどどど...どういうこと? レイ?」
「....いや、あの、その...私に聞かれても...お兄ちゃん...」
僕に対するレイの『お兄ちゃん』という言葉に家の中に居た少女が反応した。
僕の顔を見ると、一瞬目を見開き、続いてにっこりと微笑みかけてきた。
そしてレイに問いかける。
「レイ? この人があなたのお兄さん?」
「う...うん、そうだけど...」
「そう」
レイはアスカと呼ばれている少女の真剣なまなざしにのまれてしまった様だ。
彼女は僕の視線を捉えなおしてこう言った。
「あなたが碇シンジさんですね? 私は惣流・アスカ・ラングレー、あなたのフィアンセです。 今日からこの家でお世話になります」
「「へ?」」
「...なに? それ? どういうことぉ !?」
「どうもこうも、聞いたとおりよ、レイ」
「...お兄ちゃん!!...って、お兄ちゃん!?」
お兄ちゃんは全機能を停止してしまった。
無理もない、こんな美少女がいきなり『あなたのフィアンセです』なんて言って現れたのだ。
いくら『鈍い』と言われるお兄ちゃんとはいえ、こんな事態に耐えられるわけがない。
いや、鈍いからこそお兄ちゃんの処理能力を超えたと言うべきかな?
「アスカ! とりあえずお兄ちゃんを運ぶわよ!」
「あ、うん...」
どうしてそこで真っ赤になってもじもじしてるわけ? アスカ?
固まったお兄ちゃんをなんとかリビングに運んだあと、お茶を入れた私たちはしばらく見つめあっていた。
気まずい時間が流れる...アスカは時折お兄ちゃんを見て真っ赤になりながらもじもじしている。
あ〜なんだか腹が立ってきた。とにかくお兄ちゃんをもとに戻そう。
【ゴンッ】 うーん、我ながらいい音っ。
「いってぇー!! レイ! なにするんだよ!!」
「気がついた? お兄ちゃん」
「...レ...レイ?(恐)」
「なぁに? お兄ちゃん?(にっこり)」
ま、まずい...レイが母さんそっくりのこの顔で微笑む時は相当怒ってる時だ。
そうだ! 話をそらそう。
「あ、そそそそうだ。 レイ、とりあえずこの子の話を聞こうよ...ね?」
「...そうね、それは私も興味あるわ。」
ふう...相変わらずジト目でにらんでるけど、なんとか話をそらせた。
さて、問題は目の前の彼女だ、話の内容によってはレイが爆発するかもしれない。
キレると恐いからなぁ...レイは...
「それで、惣流さん...だっけ? 君が僕のフィアンセだっていうのはどういうことなの?」
「なんですってぇ!? アタシが誰だかわからないの!?」
「え...うん...」
「......」
僕の言葉に対して、あきらかに落胆してしまう彼女。
うつむき、まるで涙をこらえるかの様に肩を振るわせている...いや、事実こらえているんだろう。
僕の隣にいたレイが彼女の横に座りなおし、そっと肩を抱く。
「アスカ...」
「...いいのよ、レイ...」
「...お兄ちゃん...」
レイがすがりつく様な目で僕を見る。
言われなくてもわかってる、今一所懸命記憶の糸をたぐっているところだ。
「...憶えていないのなら..思い出してもらうから...」
瞳にためた涙はそのままで、彼女は僕のそばに来た。
レイも彼女の雰囲気から何もできない...そして僕も。
彼女はじっと僕の目を見つめる、その蒼い瞳、まるでサファイヤの様に澄んだとても奇麗な瞳...魔法にかかったかの様に僕は身じろぎすらで
きない。
突然、彼女は僕に口づけしてきた...さすがに驚いたが、沈黙の魔法はまだ解けていない。
唇に触れる柔らかな感触と目の前で揺れる紅茶色の髪...どこかで..かすかに...
その時、彼女はゆっくりと僕から離れた...そしてはにかんだ笑顔を僕に向ける。
そうか!?...忘れかけていた幼い少女の笑顔と、目の前の少女の笑顔が今、重なる。
「アッ..ちゃん?」
その言葉に彼女は輝く様な...そう、まるで燦々と輝く太陽の様な笑顔で、僕に向かって笑いかけた。
「やっぱりわかってくれたわね、シンジっ!」
9年前、止まった時計が再び進み出す瞬間だった。
後悔という名の後書き、もしくは後あがき。(爆)
おわかりでしょうが、皆それぞれに性格や言葉づかいを変えています。(^^;
シンジたち3バカトリオは少し大人に、特にシンジはうじうじしたところを極力なくしています。
アスカたちは年相応の少女的な性格ですね。
他にもまだまだ変えてますが、その辺はおいおい出てきます。
でわでわ。
〜 サブタイトルは中西保志の同名の曲 ”だから 憶えている”より 〜
1998.9.17 おかやん