右。
【ぱたぱたぱた】
左。
目の前を忙しなく動く少年の姿を追って、その少女の蒼い瞳が動く。
いつもとは違い、その視線には充足感と幸福感が混ざっている。
昨夜、少女−惣流・アスカ・ラングレーと少年−碇シンジはお互いの想いを交換しあったのだ。
『・・・僕もだよ・・・アスカ・・・』
やっと言ってくれたのよねぇ・・・長かったわ。
そこまで考えて、彼女はくすっと笑う。
そして、昨日彼からもらった、今は彼女の長い髪を一つに束ねているバンダナにそっと触れる。
くすくす・・・あの後抱きついてわぁわぁ泣いちゃったし。
でも、たくましくなってたのね・・・今まで気づかなかったけど・・・ううん、認めたくなかっただけかな。
これからは、守ってもらおう・・・今まで以上に・・ね、シンジ?
「さぁ、できた。運ぶの手伝ってくれる?」
「うん!」
そんな彼女の心の問いかけに応えるかの様に、シンジは振り向いてアスカに声をかける。
アスカも即座に答える。その言葉にはなんのてらいもない、愛しい人の役に立ちたい、ただそれだけだ。
よかったわね・・・アスカ。
そんな二人を背後から穏やかに、慈愛を持って見つめる少女−洞木ヒカリもまた、自らの想い人とお互いの想いを確認できたのだ。
その相手は今、リビングで自分の作った料理を待っていることだろう。
ヒカリはアスカたちと同様に朝食をリビングへ運んで行く。
朝食のメニューはフレンチ・トースト、スクランブル・エッグやハムエッグなどの好みに応じた卵料理、そしてサラダ。
「さぁ、どうぞ」×2
「いただきまーす」×10
そして朝食が始まる。
いつもと違うのは、仲睦まじい二組のカップルがいることだけ。
「ねぇ、シンジ?シンジのスパニッシュ・オムレツちょっとちょうだい?」
「ん?いいよ、アスカ、はい」
「ありがと、じゃアタシのスクランブル・エッグあげるね。はい口開けて」
「ちょ、ちょっとアスカぁ」
「くすくす・・・冗談よ、冗談」
「もう」
「それは二人の時にやってあげるから」
「・・・・・・」
耳元で囁かれたアスカのその一言にシンジは真っ赤になる。
ミサトはにやにやとその光景を見ていた、これで今晩の酒の肴が決定した。
「ん、さすがやな、いいんちょ」
「そう?これからも私の料理食べてよね?」
「あったりまえやんけ!」
「う、裏切り者ー!!」
ケンスケの心の叫びが聞こえてくる。
「アスカ、散歩に行かない?」
「え!?シンジ・・・今・・・なんて・・・?」
「いや、だから・・・散歩に・・・さ」
そこまで言って真っ赤になったシンジはそっぽを向いて、頬をかいている。
アスカはちょっと悪戯な笑みを浮かべながら。
「しょうがないわねぇ、ちゃんとエスコートすんのよ!シンジ!」
「努力します」
「「ぷっ・・・くくくっ・・・あははははは」」
二人は顔を見合わせて笑い出した。
手をつなぎ、外へ出た二人はしばらく遊歩道を歩いていたが、アスカがなにやら木の上に見つけた。
「あ、シンジ!ほら!あそこ!」
「なに?アスカ?あ、リスだ!」
リスも二人の気配に気づいたらしく、枝の上でひょいと身を持ち上げ二人の方を見る。
しばらくなにかを探る様にひくひくと鼻を動かしていたが、すぐに枝から枝へと移動して行った。
「あ!待ってぇ!」
「アスカ!」
アスカがリスを追って走り出す。
シンジはやれやれといった表情で見ていたが、すぐにアスカを追って走り出す。
「アスカ?」
シンジはアスカを見失ってしまった。
「わっ!!」
「!?アスカぁ!?」
突然背後から抱きつかれ驚いたシンジだが、今この場でそんなことをするのはアスカしかいない。
即座にその名前を呼ぶ。
「へっへぇ〜驚いた?」
舌をぺろっと出しながら、それでもシンジがすぐに自分の名前を呼んでくれたことを喜びながらアスカが言う。
「まったく」
シンジはただ苦笑するだけだ。
だが、すぐにアスカを捕まえようとする。
しかしアスカはそんなシンジの腕をすり抜けると別の木の影に隠れる。
「捕まえてごらんなさい?バカシンジ!」
「言ったなぁ!」
楽しそうに笑いながら逃げるアスカと追うシンジ。
アスカの髪が日差しの中できらきらと輝く。
ふと、シンジは無邪気なアスカを見てこう思う。
・・・まるで妖精みたいだ・・・
レイが儚げな妖精だとしたら、アスカは悪戯好きな妖精だろう。
「捕まえた!」
「遅いわよ!バカシンジ!」
捕まえた方も、捕まえられた方も同じ様に微笑みあう。
アスカはシンジの背中に手を回し、シンジはアスカを優しく抱きしめる。
そしてゆっくりと二人の顔が近づいてゆく・・・
「さぁ、帰るぞ!」
全員で荷物を車へ積み込んだ後、加持の号令でみんな車に乗り込む。
来る時とは違い先頭から加持・ミサト・シンジ・アスカ、リツコ・マヤ・レイ・ケンスケ、日向・青葉・トウジ・ヒカリとなっている。
加持は全ての車に人が乗り込んだのを確認すると、一呼吸おいて車を発進させた。
山道を下りはじめると、時折木々の間を縫って光が差し込む。
加持はさすがにミサトと違ってカウンターを当てる様な走りはしない。
ミサトはそれが不満なのか、時折ステアリングを操る様な仕草をする。
リアシートのシンジとアスカはその度に運転手が加持であることに感謝の念を抱くのであった。
車窓の外に目を移すと、木々の切れ目や山肌の切れ目から下界の景色が目に入る。
一度、盆地状になっている下の町へ下りてから、再度国道を使って峠を越えて行くのだ。
1時間ほど走っただろうか、シンジが加持に車を停めてくれる様に頼む。
「加持さん!あの左手に見えるログハウスのところで停まってくれませんか?」
「いいけど、どうしたんだい?シンジくん?」
「それは停まってからのお楽しみです」
「ま、いいけどな」
シンジが何をしたいのか気にかかったのだろう。
アスカがシンジの顔を見る。
「どうしたの?何があるの?シンジ?」
「うん・・・楽しみにしてて、アスカ」
「むぅ〜教えてくれたっていいじゃない!」
「むくれないむくれない、そんな顔も可愛いけどさ」
「うっ・・・バカシンジ・・・」
「あぁ〜らシンちゃぁ〜ん言う様になったわねぇ〜?」
「「ミ、ミサト(さん)!!」」
おっさんミサトのツッコミに、真っ赤になったユニゾンで返す二人。
これもまたいつもの光景だが、そのうちにミサトは当てられることになるであろうことに疑いの余地はない。
「さ、着いたぞ」
「あ、すいません、加持さん。ミサトさんたちもよかったらどうぞ、ここのはすっごくおいしいですよ。行こう、アスカ」
「え?なんだって言うのよ、シンジぃ?」
車から降りたアスカの手を取ったシンジは、一目散にログハウスへ向かって走り出す。
「なにかしらねぇ?加持?」
「さぁな、とにかくシンジくんの後をついて行ってみるか。おい、みんなもどうだ?」
そう言って加持は歩き出す。
シンジたちはログハウスの一部にあるカウンターの所に居た、なにかを受け取っている。
「はい、アスカ」
「なによ、これのためだったのぉ!?」
「いいから、食べて」
「うん・・・あ、これおいしいわ!」
「でしょ?」
シンジがアスカに渡したのは何の変てつもないソフトクリーム。
だが、乳脂肪分がたっぷりとしているのか、見た目とは裏腹に濃厚でとてもいい味だ。
そうこうしているうちにみんなが集まってきた。
「なんだ、ソフトクリームだったのか。シンジくん」
「ええ、ここのはおいしいんですよ、みなさんもどうぞ」
「そうだな、みんな食べたいヤツは頼んだらどうだ?」
振り返った加持の言葉に、女性陣は色めき立つ。
先を争いながら注文している。
「まったく・・・いくつになっても女ってヤツは。そうだ、シンジくん?」
「なんですか?」
「なんで、こんなとこを知ってるんだい?」
「あぁ、そのことですか。第3新東京市に来る前に何度か来たことがあるだけですよ」
「そうか・・・」
「へへっ、これももぉ〜らい〜」
加持との話に気を取られていたシンジの手を掴むなり、アスカは自分の口へシンジのソフトクリームを運ぶ。
「あ、アスカぁ!?」
「油断している方が悪いのよ、シ・ン・ジ」
「でもねぇ、アスカ。口の周りが真っ白だよ」
「え!?うそぉ!?」
「そう、嘘」
「きぃーよくもだましたわねぇ!」
「おあいこだよ、アスカ」
「ちょっと待ちなさぁい!バカシンジ!」
逃げ出したシンジをアスカはうれしそうに追いかける。
「やれやれ・・・」
「ま、いいじゃないのよ、加持。計画は成功したんだし」
「そうだな。そういえば葛城?」
「なによ?加持?」
「酒飲みのくせによく甘いものを食えるな?」
【スパァン】
「余計なお世話よ」
「すいまひぇん」
やがて車は高速に乗る、30分ほども走っただろうか。
シンジは疲れもあってか、すやすやと寝息を立てている。
アスカはシンジの肩に持たれて目を閉じていたが、スッと目を開けると、うかがう様にシンジの顔を見る。
安心しきったシンジの寝顔を見たアスカはまた幸せそうに目を閉じる。
そして、シンジとつないだ手にそっと力を込める。
この手は魔法の手。
いつだってアタシを守ってくれる、どんな時もアタシを包んでくれる。
優しさを、安らぎをくれる魔法の手。
後悔という名の後書き、もしくは後あがき。(爆)
いかがでしたでしょうか?
話の中で出てくる料理は、ヴァイス・ブルストを除き、基本的に私のレパートリーです。(^^;
特に、アスカ専用おやつ(笑)はやたらと女性陣にうけたことがあるので、今回重要な役割を担っていただきました。(^^;
また、舞台となった場所も多少の脚色は加えていますが現実に存在します。
シンジのフライといい、ご都合主義の産物ですな、こりゃ。(自爆)
だらだらと構成も落ちもない長い話でしたが、ともかくアスカとシンジがくっつきま した。
さぁ、ネタがなくなったぞ、どうすんべ。(^^;
でわでわ。
1998.8.27 おかやん