to tell the truth

D-part





「・・・というわけです」

シンジは大方の出来事を話した。
もっとも、アスカが背中にしがみついてきたことは話していない。
ミサトの酒の肴にされるのを恐れた、というよりはアスカのことを思ってのことだ。

「なるほどね、それでアスカが放心状態になったわけか」
「だけど、ぼくがあそこで倒れなければ・・・」
「ま、いいじゃない、結局無事だったんだし」
「ですけど、ミサトさん・・・」
「いいのよ、シンジくんはなにも心配しなくても。大丈夫、アスカならね。それとも、アスカのことが信用できない?シンジくん?」
「そんなことは・・・」
「ならいいじゃない、さっきも言ったけど、無事だったんでしょ?」
「はい」

ミサトはまるで母親の様な目でシンジを見つめる。
だが、即座におやじモードへ突入する。(爆)

「でもシンちゃぁん。後でアスカになに要求されるかわかんないわよん」
「へ?」
「『このアタシをあれだけ心配させといて、タダで済むなんて思ってないでしょうね!』とか」
「ミサトさぁん・・・」

ありうるな・・・アスカなら・・・でも、いいや。
今は・・・なんでも言うことを聞いてあげよう。


2階では、ようやく泣きやんだアスカをヒカリがなだめていた。

「ね、落ち着いた?」
「・・・ぐすっ・・・・うん・・・」
「ごめんね・・・アスカ。そんなこととは知らないで、碇くんにひどいこと言って・・・」
「・・・いいの・・・アイツなら・・・シンジなら、わかってくれると思うから」
「・・・そう・・・でも、後で誤らなきゃね。さぁ、顔洗いましょう、そんな顔は碇くんに見せたくないでしょ?」
「・・・うん・・・ありがと、ヒカリ」

そして二人の少女は部屋を出て行く。

「あ・・・」

洗面所から出てきた二人に気づいたのだが、シンジはかけるべき言葉が見つからなく、口をつぐんでしまう。
だが、その瞳は心配そうにアスカを見つめていた。

アスカ・・・目が赤い・・・泣いてたのか・・・

あ・・・シンジ・・・

「ごめんなさい、碇くん。ひどいこと言っちゃって」

そう言ってヒカリがシンジに向かって頭を下げる。
シンジはいつもの様にはにかんで答える。

「いいよ、洞木さん・・・気にしないで、ね?それより、アスカ・・・ごめんね、心配かけて」
「・・・このアタシに心配かけるなんて・・・100億年早いのよ・・・バカシンジ」
「ごめん」

アスカの精一杯の強がり。そんなアスカに二人は異口同音に言う。

「さ、お昼にしましょ、アスカ」
「お昼ご飯だよ、アスカ」











昼食はほうれん草とベーコンのパスタだった。
レイのためにベーコンを使っていないものも用意されている。
それにスープとサラダが付く。
昼食を食べ終え、紅茶を飲んでいた二人だが、ついにアスカが沈黙に耐え切れなくなった。

「ね、ねぇ、シンジ?」
「な、なに?」
「これから、アタシにフライ・・・だっけ?教えてくれない?」

そこまで言うのに、アスカは限界まで勇気を振り絞った。
もっとも、シンジがアスカの頼みを断るわけがないというのはわかっているのだが、シンジをまた湖水の中へ入らせたくないという思いもあり、今のアスカは不安でたまらない。

「え・・・あ、いいよ」
「ありがとっ!シンジ!」

アスカは思わずシンジに抱きついていた。
二人ともしばらくそのままでいたが、無粋な声が至福の時を破る。

「おいおいお二人さん、そういうのは人目の無いところでやってくれないか?」
「「か、加持さん!?」」

みごとにユニゾンした二人は、真っ赤になって離れる。

「あ、アタシ着替えてくる!」
「あ、そういえば僕もスペアのロッド持ってこなきゃ」

ばたばたと動き出す二人。加持はシンジに向かって。

「シンジくん、しっかりやるんだぞ」
「な、なに言ってるんですか・・・」
「ははっ、じゃあな」











「・・・というわけなんだ」
「なんや、そういうことやったんかい」

ここは湖畔沿いに設置してある遊歩道。
ヒカリがなにやら思い悩んでいる様子だったので、珍しくトウジが散歩に誘ったのだ。
いつもなら真っ赤になっているであろうヒカリだが、今はアスカとシンジに対する贖罪の思いでいっぱいになっているため、自分が最も望んでいたシチュエーションであることに気がついていない。

「でも、ま、大丈夫や。あいつらは」
「そうかな・・・?」
「そうや。ワイらは中学の時から見てきてるやないか?あの二人を」
「・・・そうね・・・」
「あいつらは、今までどないなことでも乗り越えてきた。あの戦いも、その後のあんな状況さえ乗り越えたやないか。これからも大丈夫や、絶対な」
「そう・・・そうよね。あの二人なら」
「そうや」
「ね、鈴原・・・」
「なんや、いいんちょ?」
「・・・ありがとう」
「ん、まぁ・・・好きなおなごが悩んどるのは、見ててつらいもんやさかいな」
「え!?それって・・・」

ヒカリは、自分が一番欲しかった言葉を言ってくれた相手を驚いた様に見つめる。
トウジは赤くなってそっぽを向いていたが、やがてヒカリに向き直り。

「ま、まぁ、そういうこっちゃ」

と一言だけ言った。

幸せだ・・・私も・・アスカたちも・・・こんなに相手を思ってくれる人がいる・・・

涙でトウジの顔が見えなくなったヒカリは、ただそれだけしか考えられなかった。
木立の中を風が吹き抜けていく。











「まず、握手する様に手を出してくれる?」
「こう?」
「うん。それで、そのままロッドのグリップを握って」

シンジがアスカに向かってロッドを差し出す。
きちんとリールの位置は合わせてあるが、まだラインは引き出されていない。
その差し出されたロッドをアスカは握手する様に握る。
シンジがアスカに教えているのは最も基本的なグリップである。

「そうそう、それで親指だけをロッドの上に伸ばす、うん、そう」
「これでいいのね?」

アスカは上目づかいにシンジを見る。
こんな表情で見られてはたまったものではない、思わずシンジが赤くなる。
そんなシンジを見て、アスカも心が軽くなるのを感じた。

今は・・・この時間を楽しもう。
シンジといっしょにいられるこの時間を。

「で、次は?シンジ?」
「え、あぁ。後はロッドを振るんだけど、大切なことは振ってもいいんだけど、振り回さないこと」
「なによ?それ?」
「振ってもいいけど回さないって言った方がいいかな?」
「???」

アスカはシンジが何を言いたいのかがわからず、きょとんとして小首を傾げている。

こんな時のアスカはほんとに可愛いな。

だが、そんな思いをシンジが口にするはずがない。
屈み込んで地面に石っころで絵を描きながら説明をはじめる。

「いい?アスカ。フライラインっていうのは、必ずロッドの先端−チップが描いた軌跡を通過するわけ。だからチップの動きを乱れさせないためにはどうすればいい?」
「うーんと、ロッドをまっすぐ動かせば・・・いい?」
「そう、正解。だから振ってもいいけど回さないってこと」
「なるほどね。でもそううまくいくかしら?」
「だから今から練習するんじゃない。アスカ」
「それもそうね。じゃ、お願い、シンジ!」
「それじゃ、僕がやる様に振ってみて」

立ち上がり、アスカにとってロッドの動きがよく見える位置に移動したシンジはロッドを振ってみせる。
『ヒュン』という小気味いい音が連続して聞こえてくる。
続いてアスカ。音はそれなりにするのだが、シンジの様に鋭くはない。

「なんかシンジとはちがうわねぇ?」
「手首がふらついてるからだと思うよ?さっき、加持さんからルアー教わったでしょ?」
「うん」
「ルアーの場合は手首のスナップが必要だけど、フライの場合はかえってそれが邪魔なんだ」
「って言ってもねぇ・・・うん、もぅ」

アスカは何度かロッドを振るのだが、ロッドの勢いに負けてしまい、どうしても手首を返してしまう。
ふくれっつらになったアスカを見て、シンジはくすくすと笑い出している。
アスカはますますふくらんでいく。

「むぅ〜なによ、バカシンジ!」
「くくくっ、ごめん。アスカ、ちょっと待って」

そう言って、シンジは自分の左腕に巻いていたバンダナを外して、ロッドの根元とアスカの手首を優しく縛る。

「さぁ、もう一度振ってみて」
「う、うん」

『ヒュン』シンジにはかなわないまでも、先程までとは違う音がする。
目を輝かせたアスカは調子に乗って何度もロッドを振る。

「これ、とっても楽よ!シンジ!」
「だろ?じゃあ、次はラインを出すからね」

そう言ってシンジはアスカのロッドのリールからラインを数メートル引き出し、するすると器用にガイドに通していく。
そしてラインにリーダーを結び、先端には毛糸を縛る。

「なんで毛糸なんか縛るのよ?」
「ん?いきなりフック付きのフライなんか付けたら危ないでしょ?」
「そうなの?」
「そうなの!」

むきになったシンジがおかしくなり、アスカはくすくすと笑い出す。

「はい、脇を締めて、ヒジを支点にして後ろに振り上げて、それで1時の位置で止める。」
「こうかしら?あっ!」
「ね?」

アスカが後方に向かってロッドを振り上げると、5mほど出されたラインがするすると後方へ走る。
シンジが施したバンダナの効用もあり、初めてにしてはラインの乱れが少ない。

「できたぁ!シンジぃ!」
「うん、でもまだだよ。さっきと同じ様に脇を締めて、ヒジを支点にして前に向かって振り下ろす。そして11時の位置で止める」
「こう・・・ね?んしょっ」
「ちょっと振りすぎかな?でもいいよ」

先程と同じ様にラインがロッドの後を追従し、今度は前方に走る。

「これであたしも釣れるかしら?」
「まだ早いって、アスカ」
「むぅ〜」
「じゃあ、今度はこれを連続でやってみよう」
「えぇ〜?」
「教えてと言ったのはどなたでしたっけ?アスカさん?」
「うっさいわね、わかったわよ!」

そう言って、アスカはバックキャストとフォワードキャストを繰り返す。
だが、タイミングもへったくれもあったものではなく、すぐさまラインがからんでしまう。
実はシンジがわざとそうさせていたのだ。

「うん、もぅ」
「なぜそうなるかわかる?アスカ」
「むぅ〜そんなことわかるわけがないでしょ!」
「バックキャストとフォワードキャストに移るタイミングが悪いんだ。それぞれラインが前方と後方へ伸び切るわずかな瞬間に移行しないと」
「難しいもんねぇ・・・」
「だから練習してるんじゃない」
「それもそうか・・・こう・・・こうかな」

先程よりはましな曲線をラインが描くのだが、パチパチというライン同士がぶつかり合う音がする。
その音が気になったアスカがシンジの方を向き口を開きかけた時、ロッドの動きが乱れた。

「ねぇ、シン・・・」
「アスカっ!」

アスカとラインの動きを目で追っていたシンジが、いきなりアスカの前に移動する。
一直線にアスカの顔に向かって走ってきたラインは割り込んだシンジに全て吸い込まれていく。

「てっ、ダメだよアスカ、よそ見しちゃ。ロッドの動きが乱れたじゃない。ね?」
「え、あ?ごめんなさい・・・」
「うん。やっぱり毛糸にしといてよかったな」
「って、それ・・・?」
「自分を釣るのを防止するため」

そう言ってシンジはにこりと笑う。
毛糸を縛ったのはアスカにケガをさせないため、という気持ちも含まれているが、そんなことは言わなくてもアスカにはすでに伝わっている。

気を使いすぎよ、バカシンジ。
それに、ケガしたってあんたに責任取らせればいいんだから。

ある意味ぶっそうな考え方だ。

「で、まだロッドの動きが乱れてるのがさっきの音の原因なんだよね、もう一度見てて」

そう言ってシンジは再度ロッドを操る。やはりアスカとは格段に動きが違う。
アスカも真似してロッドを振るが、どうしてもうまくいかない。

「むぅ〜」
「アスカ、ちょっとやめて」

このままでは、アスカが癇癪を起こしてロッドを無茶苦茶に振り回して暴れ出しかねない、と思ったシンジはアスカを制止する。
そしてそのままアスカの背後へ回り込み、後ろからアスカを包み込む様にしてその右手を優しく掴む。
高校に入り、シンジはアスカより身長が伸びたこともあり、そういう態勢だとアスカをすっぽりと胸の中へ包みこんでしまう。

え・・・!?
やだ・・・どきどきしてきちゃった。

「いいかい、アスカ。僕がロッドを振るから、その動きとロッドにかかる重量の変化を感じて」
「え・・・あ・・・うん」

シンジがロッドを操りはじめる。
今までとはまったく違うロッドの動きとラインがロッドにかける重量の変化。
これがシンジの動きなんだとアスカは感じていた。

「アスカ、僕の動きに追従して。できるよね?ユニゾンすればいいんだから」
「あったりまえでしょ!この天才をなめるんじゃないわよ!」

アスカはうれしくなってきた。

そうよ、あたしとシンジとの絆。ユニゾンすればいいだけじゃない!
ありがと、シンジ。気づかせてくれて。
それに・・・包まれているこの感覚・・・うれしい・・・

二人で操るロッドの動き、それが最初こそ少しぎこちなかったものの、次第にぴったりとしたものに変わってくる。
まるでダンスを踊る様に。
それはシンジの動きであるとともにアスカの動きでもある。
二人は久々の一体感を感じていた。

「これでいいかな?休憩しよう、アスカ」
「そうね、少し疲れたわ」
「じゃ、お茶の準備をするね」
「あ、アタシが淹れるわ、世話になったしね」
「そう?」

アスカの右手とロッドを縛っていたバンダナを解き、そう言いながらも、シンジはてきぱきとシングルバーナーを組み上げ、小型のポットに水を入れ、火にかける。
そしてアスカに背を向けて、なにやら作りはじめる。
アスカは額にうっすらと浮かんだ汗をそのシンジのバンダナでぬぐう。

もぅ・・・相変わらずなんだから。
あ・・・バンダナ・・・

「ねぇ、シンジ?」
「んー?」
「このバンダナもらっていい?」
「んー・・・別にかまわないけど?」
「じゃ、ちょうだい?」
「うん」

数分が経ち、お湯が沸き上がる。
アスカは紅茶を淹れたが、シンジはまだなにやら作っている。
アスカは風上に居るので気づかないが、周囲にはいい匂いが漂っている、そろそろ完成する様だ。

「なに作ってるのよ?シンジ?もう紅茶淹れ終わったわよ」
「んー?お茶菓子・・・」
「へ?」
「はい、できた。どうぞ。」

そう言ってシンジがアスカの目の前に持ってきたのは、一見何の変てつもないホットケーキ。
だが、シンジのことだ、普通のものであるわけがない。

「なに?ホットケーキじゃない?」
「ま、いいから食べて」
「そう?まぁ、こんな場所で焼きたてが食べられるってのもいいかもしれないわね」

うれしさを噛み殺し、アスカがホットケーキを口に運ぶ。
シンジは自分のしかけが効果を現すのを黙って見ている。

「・・・!!・・・これ・・」
「どう?けっこういけるでしょ?」
「まるでアップルパイみたい・・・おいしい」
「ね?」

シンジが作ったのは、ホットケーキの生地の中に、バターでしんなりするまで炒めた林檎を混ぜこんで焼いたもの。
林檎の酸味と甘みがホットケーキに混じって、かなりおいしい。

「シンジ・・・」
「なに?」
「これはアタシ専用のおやつにしなさい!」
「へ?」
「これはミサトに食べさせるにはもったいないわ!」
「なんだよ?それ?」
「あんたはアタシの言うことを黙って聞けばいいの!」
「はいはい、わかりました」

ビシッと指を突きつけてシンジに命令するアスカに、シンジは苦笑しながらもうなずいていた。

「ほら、見てみぃ、いいんちょ」
「え?」
「あそこや」

トウジが指差す先には、仲良く笑いながらティータイムを過ごす二人がいた。

「な?なんも心配はいらんかったやろ?」
「そうね、私たちも戻って、お茶にしましょうか?」
「そやな、行こか」

そう言って、安堵した二人は寄り添いながら、ロッジに向かって歩いて行った。











「さぁ、今度は実際に釣るよ、アスカ」
「え?」

紅茶を飲み干し、二人は心地よい沈黙の中にいたのだが、アスカに対するシンジのレッスンはまだ終了していない。
アスカに手を差し出し、立たせたシンジは、安心させる様に言葉を続ける。

「大丈夫、今度は水の中には入らないから」
「・・・そう」
「それに、アスカも自分が釣った魚食べてみたいでしょ?」
「まぁ、あんたが釣ったものでもいいけどね」
「へ?」
「さ、さぁ!さっさと行きましょ!」
「うん」

二人はポイントへ移動する。
まだアスカは10m程度しかラインを繰り出せないため、シンジはポイント選びに苦労するが、なんとかポイントを探し出した。
アスカのロッドのリーダーの先の毛糸を解き、ティペットとドライフライを結びなおす。
イブニングライズにはまだ早いが、それでも先程よりは活性が高いはずだ。

「まず、僕がキャストするから、ポイントを見ててね、アスカ」
「うん・・・」

シンジはそう言って自分のロッドを操り、華麗にポイントにフライを落として行く。
だが、アスカに釣らせるということを念頭に置いているため、この場にはふさわしくないパターンを選んでいる。
初心者のアスカが、そんなシンジの心づかいに気づくことは無いだろうが。

「できるかな?アタシに?」
「できるさ、さっきユニゾンしたじゃない」

ラインを手繰り寄せたシンジがアスカに言う。
その優しい視線と言葉によってアスカは自信を取り戻す。

「そう・・・そうよね。ユニゾン出来たんだもんね。シンジの動きはアタシの動きよね!」
「さぁ、やってみて、アスカ」

シンジが今まで居た場所から移動し、アスカがシンジがいた場所へ立つ。
そして深呼吸をして、心を落ち着ける。

行くわよ、アスカ。

自分を鼓舞したアスカがロッドを振り上げる。
シンジとの動きをトレースしながら、ロッドを操る。
シンジはそんなアスカを微笑みながら優しく見つめる。

今だ、アスカ!

シンジがそう思った瞬間、アスカがラインをシュートする。
ラインは優雅な曲線を描き、フライは先程シンジが落としたポイントへゆっくりと舞い降りて行く。
音もなくフライが着水。アスカが満面の笑みをたたえ、シンジの方を見る。

「やった!できたよ!シンジ!」
「うん、でも、まだ気を抜いちゃだめだよ、アスカ」
「・・・え?」
「ほら来た!」

さすがにシンジは経験者だ、水面のフライに向かって来る魚の動きが見えている。
だが、こんなに早く捕食に来るとは思っていなかったので、まだアスカにはフッキングのタイミングを教えていない。
素早くアスカのロッドとラインを押さえるとロッドを一気に上へ引き上げる。
魚が反転して逃げようとするが、すでにしっかりとフッキングされている。
あとはラインのテンションを保ったまま寄せてくるだけだ。

「アスカ!ゆっくりとラインを手繰り寄せて!」
「え?ちょ、ちょっとシンジ!」
「釣れたんだ!アスカも最初の獲物を逃がしたくないだろ!?」
「わかったわ!こう・・・これでいいの?」
「そう、そのまま・・・そうそう・・・ラインと魚のテンションを保ったまま・・・ゆっくりと寄せて」

ゆっくりと魚が岸に向かって寄ってくる。
シンジはフィッシングベストの背中のフックから、ランディングネットを外す。
そしてアスカに指示を出す。

「アスカ、そのまま後ろに下がって。もう、ラインは引かなくていい」
「うん」

アスカはシンジの指示に従う。
そしてシンジはゆっくりとランディングネットを繰り出す。

「アスカ!もういいよ!」
「・・・釣れた・・・の?」
「ほら」

そう言ってシンジが差し上げたランディングネットの中には虹色に光る魚体があった。
ぱくぱくと口を開いている。

「よくやったね、アスカ」
「ほんとに・・・アタシが釣ったのね・・・?」
「そうだよ」
「やったぁー!!」
「おめでとう、アスカ」
「ううん、シンジのおかげよ!」

アスカの言葉は嘘ではない。
上級者でもあるシンジが選んだポイント、今この場に最も適したフライパターン、そしてシンジと寸分違わぬキャスティング。
確かに全ての要素が揃っている。
それは全てアスカに釣らせてあげたいというシンジの思いだ。

「やった!やった!シンジ!シンジぃ!」
「ちょ、ちょっと」

シンジに抱きつき、頬をすりつけながらごろごろと甘える様にうれしがっているアスカを、濡れない様にランディングネットを動かしながら、シンジは優しく見つめていた。

こんなところはまったく子供だな・・・でも、可愛いや。

「アスカ?そろそろいいかな?」
「え!?」

今ごろになって、自分が何をしていたのか気づいたアスカは一気にゆでダコの様になり、あわててシンジから離れて明後日の方向を向いてしまう。

きゃー恥ずかしいぃぃぃ!
シンジにあんなことしたなんてぇぇぇぇぇ!
でも、シンジも嫌がってなかった・・・

「さぁ、アスカ。続けるよ」

アスカの最初の釣果をストリンガーに吊り下げ、シンジがアスカを即す。
まだまだ時間はある、シンジだってこの時間を楽しみたいのだ。
もちろんアスカに異存があるわけがない、輝く様な笑顔をシンジに向けて言う。

「うん!」

アスカがキャストし、シンジがフライの交換やその他のサポート。
二人は時間が経つのも忘れた。
だが、楽しい時間もいずれ終わる時が来る。
シンジの腕時計のアラームが夢の終わりを告げた。

「時間・・・ね・・・」
「・・・うん、さぁ、帰ろう」
「そうね・・・」

シンジがタックルとバスケット、そして釣果を持ち、二人は連れ立って歩き出す。
アスカはシンジにもらったバンダナをそっと握り締めた。









まんた☆彡からの一言

D-partの公開です。

ユニゾン。

ユニゾン特訓以来、隠れてユニゾンしてたんでしょうね(ニヤ

そうじゃなきゃこううまくいかんよな。


私もアスカさまに頬擦りされたいです。



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ここから戻れるわよ