to tell the truth

C-part





カーテンのすき間から差し込む日差しで、アスカは目覚めた。外では小鳥の鳴き声がしている。

頭いったぁ・・・ゆうべ、ミサトにあおられてワイン飲み過ぎちゃったかしら?
でも、食欲はあるみたいだから、大丈夫かな?

軽い二日酔いなのだろう、ベッドの中でアスカはそんなことを考えている。
実際、ワインは飲み過ぎると悪酔いすることが多い。
隣を見ると、ヒカリもまだ寝ている様だ、周囲を見回し、アスカはいつのまにか枕元に置いてあったシンジからのプレゼントである腕時計を手に取り、時間を確認する。

−8時過ぎ−

いつもならまだ寝ている時間だが、こんな時は時間が惜しいもの。

そうだ、シンジは・・・?

昨夜、ミサトにからまれているシンジに自分も酔っぱらってからんでいったことまでは覚えている。
だが、そこから先の記憶が無い。アスカはとりあえず起きることにした。

「ふぁ・・・あ」

その気配でヒカリが起きる。まだ目の焦点が合わず、ぼーっと周囲を見回す。
その目が起き上がったアスカを捕らえる。

「ふぁ・・・おはよう、アスカ」
「おはよう、ヒカリ」

互いに目をこすりながら挨拶するが、なにかおかしくなったらしく、二人でくすくすと笑い出す。

「ひっどい顔」
「あら、アスカだって人のこと言えないわよ?」
「しっつれいねぇ」
「そういえば、綾波さんは?」
「そういえばいないわねぇ、もう起きたのかしら?」

確かにレイの姿はベッドにはない。
昨夜はほとんど飲んでいないはずなので、いつもどおり早起きしたのだろう。
アスカはカーテンと窓を開けて、外気を取り入れる。
高原特有の澄み切った冷たい風が入ってくる。
しばらく気持ちよさそうに目を閉じていたアスカだったが、ヒカリに向き直って言う。

「さ、起きて顔洗いましょ、そんな顔鈴原には見せたくないでしょ?」
「そういうアスカだって、碇くんにはそんな顔見せたくないんじゃない?」
「おあいにくさま、シンジはこんなアタシも知ってるの」
「はいはい、ごちそうさま」

し、しまった・・・余計なこと言っちゃった。

真っ赤になったアスカを、ヒカリはうらやましそうに見ていた。
そして二人は部屋を出て行く。

洗面所から戻った二人をリビングで加持とレイの二人が迎えた。

「おはよう」×2←加持とレイ
「おはようございます」×2←アスカとヒカリ

その声に気づいたシンジがキッチンから出てくる。ここでもきちんと愛用のエプロンをしている。
これはもちろんアスカからのプレゼントだ。
『アタシのためにおいしいものを作ってね』というアスカの願いが込められている。

「おはよう、起きたんだ、二人とも」
「おはよう、碇くん」
「おはよ、シンジ」
「じゃ、朝食の仕上げにかかるかな。加持さん、みんなを起こしてきてもらえますか?」
「あぁ、わかったよ、シンジくん」

そう言って、加持は2階へ上がっていった。
が、階段の途中で苦笑しながら振り返る。

「そうだ、葛城は起こすだけ無駄かもしれんぞ」
「それもそうですね」
「そうよねぇ、あのビア樽女」
「アスカぁ」
「なによ?ほんとのことじゃない」
「まぁな」

そう言って、3人は再度苦笑する。
ふだんのミサトを知るがゆえの言葉だ。

「とにかく、お願いします、加持さん」
「あぁ、わかってるよ」


階段を登っていく加持から視線を外したあと、シンジは誰ともなくつぶやいた。

「さて・・・と」
「あ、碇くん。朝食の準備は?」
「うん?あぁ、だいたい出来てるから、後は運んでくれればいいや」
「そう?ごめんね。碇くん一人にまかせちゃって」
「別に僕は気にしてないから」

シンジはそう言ってキッチンへと戻っていった。

「ねぇねぇアスカ?今朝のメニューなんだと思う?」
「そんなことわかるわけないじゃない・・・ってヒカリは知ってるんだっけ?」
「そう、今朝のメニューはおかゆと雑炊。みんな酔っぱらっちゃうって見越してたのかしら?」
「・・・アイツならありえるわね」
「ほんと、マメねぇ、碇くん」
「まぁ、でも、そんなところが・・・」
「そんなところが、なに?」

『ボッ』という擬音がぴったりなほどの勢いでアスカが真っ赤に染まる、自分の言葉に自爆した様だ。

「なななななんでもないわよっ!」
「あぁ〜ら、アスカぁ?そうかしらぁ?」
「なんでもないってば!もう、知らないっ!」

そう言ってアスカはそっぽを向いてしまった。
ヒカリもそれ以上はからかう気がないのか、あるいはトウジのことで切り返されるのを恐れたのか、くすくす笑っているだけだ。
だが、いつまでもそのままでいるわけにはいかない。

「さぁ、碇くんを手伝いましょ!」
「う、うん」

そう言って、レイも含めた3人でキッチンへ行き、食器を運んでくる。
そうこうしているうちにミサトを除く全員が起きてきたらしく、朝の挨拶が聞こえてくる。

「はい、みんな朝食ですよ」

そう言って、シンジが並べていくのは3種類のおかゆと雑炊。
まずはショウガがゆ。かつおだしと味噌とショウガの絞り汁がベース。上には炒めたショウガとミツバが乗っている。
もうひとつは茶がゆ。濃いめに煮出したほうじ茶がベース。これは冷やしてもおいしいので、一部はミサトのために取ってある。
最後はたまご雑炊。かつおだしと塩がベース。たまごをかき混ぜる様に入れて軽く固まったら完成。上にはミツバが乗っている。
各種の漬け物類もぬかりなくテーブルに配置してある。

「いただきまーす」×11

一瞬の沈黙の後、感嘆の声が聞こえてくる。

「おいしーい」
「さすがだな」

等々。シンジはそれらの声に微笑みをもって応える。
マヤはかなり真剣にレシピを聞いている様だ。











洗い物も終わり、女性陣はシャワーを浴びている。
さすがに昨晩は火の周りで騒いだために、べとつくのだろう。
シンジは加持と一緒に釣りの準備をはじめている。
本来はサンライズかイブニングの捕食時間帯が一番良いのだが、この時間は餓えた獣たちの相手をしないといけないので、さすがにシンジも釣りに行けない。
そうこうしているうちにアスカたちが戻ってきた。

「あら?シンジ、釣り?」
「あ、うん、加持さんと今日の夕飯のおかずを釣ってこようかと思って」
「釣れるかどうかは別問題だがな」

ロッドをつなぎ合わせながら、そう言って加持は笑う。
フィッシングベストを羽織りながら、シンジも苦笑するだけだ。

「あ、碇くん。お昼は私が作ってもいいかな?」
「へ?どうして?」
「だって、朝は碇くんだけにまかせちゃったじゃない」
「そんなこと、別に僕はいいのに」
「いいの。作らせて、ね?」
「そうしなさい、シンジ!ヒカリもこう言ってるんだし!」
「そうよ、碇くん」
「うん・・・じゃあ、お願いできるかな?洞木さん?」
「まかせといて」

そう言ってヒカリは胸をはる。実はちょっとした悪巧みが心に秘められていたのだ。
アスカはシンジと話しをしたかったのだが、ヒカリはアスカを部屋の隅に引っ張っていく。

「アスカ、これで碇くんはゆっくりできるはずだから、いっしょに行きなさい」
「え?ちょ、ちょっとヒカリぃ」
「いいから」
「・・・うん、ありがと」
「よし」

そう言って、ヒカリはアスカにウインクする。その表情は男を撃墜するに十分なものだろう。
だからアスカに反撃の糸口を与えてしまうのだ。

「ウインクは鈴原にしてあげなさい、ヒカリ」

その場には真っ赤になったヒカリが残された。

やっと二人きりになれるかも・・・きゃーきゃー

またしてもアスカは妄想モードに突入した。











6フィート6インチという長めのロッドが天に向かってかざされ、わずかに後方に傾けられた直後、『ヒュンッ』という小気味いい音とともに振り下ろされる。
タイミングを見計らって放たれたルアーは狙ったポイントへ軽い放物線を描いて飛んでいく。

【ポチャン】

着水。ゆっくりとルアーが沈んでいくのをカウントし、加持はラインを止め、リトリーブをはじめる。
ロッドを器用に操りながら加持が言う。

「どうした?アスカ?そんなにシンジくんが気にかかるのかい?」
「え!?いや、そんな・・・」

アスカはさっきまで加持にルアーフィッシングを教わっていた。
もともと運動神経はいいアスカだ、すぐに要領を飲み込み釣りはじめたのだが、まったく釣りに集中していない。
それどころか、時折シンジの方を盗み見てはうつむいてしまうのだから、加持でなくても気がつくだろう。
もっとも、短気なアスカが投げてはリトリーブするだけの釣りに満足するとは思えないが。

むぅ〜バカシンジ!
だいたい、あんなもん振り回されたら近づけるわけないじゃない!
でも、前世紀の映画のワンシーンみたいね・・・なんて言ったっけ、あの映画?

そのシンジの持つ7フィート6インチのロッドが、ヒジを支点として後方へ跳ね上げられる。
『ヒュオッ』というロッドが発する音に続いて、『シャアッ』というラインが走る音がする。
ラインが後方へ伸び切った瞬間、今度は前方へ向かってロッドを振り下ろす。
だが振り切るわけではなく、目線の高さで止める。ラインが前方へするすると走る。
再度後方へバックキャスト。だが、今度はキャストと同時に左手に持ったラインを後方に引く。
同様に前方へフォワードキャスト。この時もキャストと同時に左手に持ったラインを後方に引く。
数回、キャストを繰り返しながら、徐々にラインを延ばしていく。
十分にラインにスピードとパワーが乗ったのを確認したあと、最後のフォワードキャストの際に左手に持ったラインを解除してやる。

いわゆるダブル・ホールである。

その勢いを前方に向けて開放されたラインは一直線に湖面のポイントへと走っていき、ティペットに結ばれたドライフライがふわりと着水する。

しばらく反応を待ったあと、ポイントを変えるためにシンジはラインを手繰り寄せる。
加持が釣った分と合わせても、全員の胃袋を満足させるにはまだ不足しているが、その腰に着けられたストリンガーには数匹のニジマスが吊り下げられている。

「しかし意外だな、シンジくんがフライフィッシングなんて」

加持が心底感心した様に言う。
シンジが操るラインが描く優雅な曲線に見とれていたアスカはあわてて言葉を返す。

「え、あ、そ、そうね、いつもぼけぼけっとしてるくせに」
「おいおい、そんなこと言うもんじゃないぞ」
「だって・・・」
「ゆうべだって、酔いつぶれたアスカにいちはやく気づいて、ベッドに運んでいったのはシンジくんなんだからな」
「え!?」

シンジ・・・

アスカはシンジの方を見る、だがシンジが見当たらない。

「シンジ!?」

直後、シンジの足が湖面から顔を出し、白い飛沫が舞う。
アスカは倒れただけだと安堵するが、加持の反応は違った、一声叫ぶとシンジに向かって走り出す。

「まずい!!シンジくん!!」
「え!?あ、加持さん!!」

水際からシンジの位置まで最短距離で水をかき分け進み、シンジを助け起こした加持はそのままシンジを陸上まで連れてくる。

「・・・げほっ、ごほっ・・・はぁ・・・はぁ・・・助かりました、加持さん・・・」

荒い息を吐きながら、シンジは加持に礼を言う。

「あんたバカぁ!?腰ぐらいの深さで溺れるわけないでしょうが!まったく、いつもぼけぼけしてんからそうなんのよ!」

シンジはそんなアスカの言葉も耳に入らない様だ。
あるいは心配させまいとして聞き流したのか。だとしたらそれは裏目に出た。

「・・・はぁ・・・はぁ・・・でも、良く知ってましたね?」
「あぁ、チェスト・ハイのウェーダーは下手に倒れるとそのままお陀仏だからな」
「・・・そうですね、実際、もうダメかと思いました」

え・・・?
シンジが・・・死・・・ぬかも・・・しれ・・・なかった・・・?
なに?・・・どういうこと・・・?

アスカは空恐ろしい会話に真っ青になる。
シンジが死んでしまうことになるかもしれないほどの事態だとは思いもつかなかったのだ。

「・・・加持さん・・・それ・・・?」

だが、加持はアスカの言葉をさえぎる様に言葉を続ける。

「シンジくん、アスカに感謝するんだな」
「え?」
「シンジくんの異変にいちはやく気づいたのはアスカなんだから」
「・・・そうなんだ・・・ありがとう、アスカ」

まだ、苦しそうな顔を精一杯の努力で笑顔に変え、シンジはアスカに礼を言う。

「あ・・・うん」
「さて、オレはもうちょっと釣ってくるぞ。シンジくんは一休みするといい」
「はい」

そう言って、去り際にアスカにウインクをし、加持は先程まで居た場所に戻っていった。

「アスカ、加持さんといっしょに行っていいよ。僕はもう少し休憩するから」
「いいわよ・・・少しぐらいいっしょにいるから」
「そう?」

お願い・・・いっしょにいさせて・・・シンジぃ・・・

あおむけになり、目をつぶっているシンジは、加持が気をきかせてくれたことも、泣きそうになっているアスカにも気づかなかった。

数分後、アスカの精神状態も少し落ち着き、シンジの呼吸も正常になったところで、アスカが先程から疑問だったことをシンジに聞く。
シンジはまだあおむけのまま、アスカはその傍らに座ったままだ。時折、風がアスカの長い髪をなびかせる。

「ねぇ、シンジ?」
「なに?アスカ?」
「さっき、加持さんと話してたこと・・・シンジが・・・」

アスカはそこでいったん言葉を切る。考えたくもないことを想像してしまったためだ。

「・・・シンジが・・・死ぬかもしれなかった・・・って?」
「あぁ、そのこと?たいしたことじゃないんだけど」
「たいしたことでしょうが!!」
「え、あ・・・ごめん」

さっき、アタシがどれだけ不安になったか知らないくせに・・・バカシンジ!!
アタシはまだ自分の・・・自分の気持ちを・・・
それなのに・・・あんたが・・・シンジが死ぬなんて・・・

「えぇ〜っと、チェスト・ハイのウェーダーを着たままで水の中でひっくり返る様に倒れるとさ、足だけが浮いて上半身が逆に沈んじゃうんだよね。ウェーダーの中に水を入れることができればなんとかなるんだけど。さっきはちょっとあわててたから、うまくいかなかった。ははっ」
・・・『ははっ』じゃないわよ・・・バカシンジ・・・

シンジにはそんなアスカのつぶやきは聞こえなかったらしい、上半身を起こして再度アスカに礼を言う。

「でも、アスカが気づいてくれて助かったよ。ありがとう、アスカ」

アスカはシンジの背後に回り、シンジの肩に手をかけ、背中にそっと頬を寄せる。

「ちょっと、アスカ!濡れちゃうって!」
・・・お願い・・・ちょっとの間でいいから・・・このままでいさせて・・・お願い・・・
「・・・・・・」

シンジは黙って自分の肩にあるアスカの白く細い指に触れた。

心配かけたね・・・ごめん、アスカ。











【ガンガンガン】

「お昼よー!!」

鍋をお玉で叩く音がする。続いてヒカリの声が食事の時間であることを告げる。
その声に気づいたアスカは、飛び跳ねる様にシンジから離れると、下を向いてうつむいてしまった。

「・・・行こう・・・シンジ・・・お昼だって・・・」
「そう・・・だね。」

そう言って二人はロッジへと歩き出す。ヒカリは自分の計略が成功したと信じていたのだが。
ロッジに戻ってきた二人の様子が尋常ではないのを見て取り、シンジに向かって詰め寄る。

「碇くん!あなた、アスカになにをしたの!!」
「え?」

シンジは気が動転してしまい、まともな言葉が返せない。
だが、アスカはヒカリの怒声で自分を取り戻す。

「ち、ちがうのヒカリ・・・これは・・・」
「ちょっといらっしゃい、アスカ!」

そう言ってヒカリはアスカを自分たちに割り当てられた部屋へ連れていく。
その際にシンジをにらみつけることを忘れない。

まぁ、誤解されてもしょうがない・・・か。

「・・・碇くん、なにがあったの?」
「あ、綾波・・・」

一連の状況を見ていたレイがシンジに尋ねる。
ミサトも眉根をひそめてシンジをにらんでいる。

「そうね、あたしも聞きたいわ。シンジくん、とりあえず着替えてらっしゃい、話はそれからね」












「さぁ、なにがあったのか聞かせてちょうだい?」

部屋に入るなり、ヒカリがアスカに聞くのだが、アスカは張り詰めていた緊張から開放されたのか、ぺたんと座り込み手で顔を覆って嗚咽しはじめた。

うう・・・うえっ・・ヒック・・・うぇぇ・・シンジが・・・シンジがぁ・・・
「落ち着いて、アスカ、碇くんがどうしたの?なにかされたの?」
・・シンジぃ・・・ヒック・・シンジが・・・シンジが溺れて・・死ぬかもしれなかったの・・・・・・ヒック・・うう・・・
「え!?」
アタシ・・・そんなだって・・気づかなくて・・加持さんが・・・加持さんが助けてくれなかったら・・・ごめんね・・・ごめんね・・・・シンジぃ・・・う・・うぅ・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・」
「アスカ・・・」

そこまで言って、アスカは堰が切れた様に泣き出した。
ヒカリはただアスカを抱きしめて優しく髪をなでることしかできなかった。

ごめんね・・・碇くん・・・アスカ・・・









まんた☆彡からの一言

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つ、釣りはわからん…



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ここから戻れるわよ