「加持さん、本当にこれも持っていくんですか?」
陽光きらめく中、コンフォートA17マンションの前では、それぞれが車の中に荷物を積んでいる。
だが、シンジにはなぜ持っていく必要があるのかわからない荷物があるらしい。
「あぁ、頼むよ、シンジくん」
「わかりました、加持さんがそういうのなら」
まだ納得はしきれていない様子だが、シンジはそう言って大きな荷物を4駆へ積み込む。
積み終わると、リアハッチを閉じる。
すると、シンジの料理番としての側面が顔を出す。
実際、キャンプでは食料の調達のタイミングというのは難しいのだ。
できるだけ、現地で調達した方がいいのは言うまでもない。
その土地での特産物が安く手に入ったりするし、ついでに地酒も手に入る。(笑)
「途中で食料の買い出しするんですよね?」
「あぁ、酒も仕入れなきゃならないしな」
「酒代と食料費とどっちがかかりますかね?」
「シンジくん、それは言わない約束だろ?」
「そうですね」
加持は男くさい笑みを浮かべてシンジを見る。
シンジは苦笑している、が、加持の背後に立つ影を見て凍りつく。
シンジの脳裏をよぎるかつての宴会での惨劇。
「あ・あ・あ・あ・・・」
「ん?どうした、シンジくん?」
加持の首に白くしなやかな腕がからみつく。
そして一気に締め上げられる、スリーパーホールドだ。
「かぁじぃ〜?それはどういう・意・味・か・な・ぁ〜?」
「ぐえぇぇぇ・・・やめてくれ・・・か・・つ・・ら・・ぎぃ・・・」
背中に当たる柔らかな感触を楽しみたい反面。
頚動脈を絞められブラックアウトしたくはないという相反する思いを抱きながら加持は身悶える。
「か、加持さん・・・僕メニューについて打ちあわせてきますから。それじゃ・・・」
だが、シンジの言葉は既に加持には聞こえていなかった。
ミサトは次にかける技を決めた様だ、さすがに卍固めはミニスカートでは恥ずかしいらしく、コブラツイスト。
あの豊かな胸の感触が楽しめるのならかけてくれ、という輩がいるかもしれない。
シンジはすたこらさっさとその場を離れて行く。
「おはよう、洞木さん。キャンプ中のメニューこれでどうかな?」
そう言って、シンジはアスカと話していたヒカリに先日決めたメニューを見せる。
なにやら細々と書かれたメモ。ヒカリはそのメモを手に取る。
「おはよう、碇くん。どれどれ」
「シンジ、いつのまに決めたのよ?」
「うん?あぁ、みんなから了承もらった日」
「ふーん」
「いいんじゃない?さすが碇くんね」
「ありがと、洞木さん。細かい材料は食料を仕入れる時に決めるから、手伝ってね」
「わかったわ」
そして、シンジはトウジたちの方へ行く。
ヒカリはメニューを見て、なにやら気づいた様だ。
「ね、アスカ」
「なに?ヒカリ?」
「楽しみにしてなさい」
「なにが?」
「な・い・し・ょ」
「なによぉそれわぁ。ヒカリこそ鈴原とのことが楽しみなくせに!」
「そ、それは・・・」
「さぁ〜って、ゆっくり計画を聞かせてもらおうかしらぁ?ヒ・カ・リ?」
攻守所をかえ、二人の少女は快活な会話をはじめた。
そのころ、シンジたちは。
「おはよう。トウジ、ケンスケ」
「おう、おはようさん、センセ」
「おはよう、シンジ」
「晴れてよかったね」
「せやな」
「雨の中ではあまり撮りたくないから、よかったよ」
「ま、楽しもうよ」
「そうだな」
「せやせや」
背後から若い女性の声がかかる。
「おはよう、シンジくん。料理は全てシンジくんがやるんでしょ?楽しみね」
「あ、おはようございます。マヤさん、リツコさん」
「おはよう、シンジくん」
「でも、僕だけじゃないですよ。洞木さんもいるし」
「・・・おはよう、碇くん」
「おはよう、綾波。ちゃんと綾波も食べられるメニューも考えといたからね」
「・・・ありがとう」
頬を染め、うつむくレイ。そんなレイをリツコとマヤは微笑んで見ていた。
まだまだ他の同じ年ごろの少女に比べるとその起伏は小さいとはいえ、レイが感情を出してくれる様になったのがうれしいのだろう。
そこへオペレーターコンビ登場。
「よぅ、みんなおはよう」×2
「おはようございます、日向さん、青葉さん」
「遅いわよ、二人とも」
「そんなこと言わないでくださいよ、葛城さんたちは?」
そんな日向に、リツコは黙ってある方向を指し示す。
そこにはやくざキックを加持に入れているミサトの姿があった。
加持は既に沈黙している。
「・・・あ、あははははは。『使徒、完全に沈黙しました』ってとこですね」
「不様ね。それはそうと青葉くん、やっぱり持ってきたの?」
「当然でしょう!キャンプといったらキャンプファイヤー!キャンプファイヤーといったらギターです!」
「はぁ・・・」
リツコはこめかみに手をあてた。
あの歌を聞くのか・・・何か手を打たないといけない様ね。
「さ、出発よ!」
ミサトの号令がかかり、それぞれが車へ乗り込む。
続いてバタン・・バタンとドアが閉じられる音。
車は4駆が3台。配車は先頭から加持・ミサト・シンジ・レイ、リツコ・マヤ・アスカ・ヒカリ、日向・青葉・トウジ・ケンスケとなっている。
「むぅ〜」
アスカがぶーたれている。
それはそうだろう、シンジと一緒に乗るつもりだったのだが、レイに先を越されてしまったのだ。
実際問題、あこがれていた人と一緒の車に乗れずにすねてしまったヤツを作者は知っている。
帰りにはそいつと一緒に乗せるということで、その場は納得させことがある。
「アスカ、機嫌なおして、ね?」
「べつに怒ってなんかいないわよ!」
ヒカリが一所懸命なだめようとするのだが、アスカは相変わらず不機嫌なままだ。
そういうヒカリだって、ほんとはトウジの隣に座りたかったのだ。
だが恥ずかしがり屋のヒカリが自分からそういうことを言い出せるはずがない。
そんな後部座席の二人をミラー越しに見て、リツコとマヤはくすくすと笑っている。
「アスカったら、やっぱりシンジくんと離されたのが気に入らないんですね、先輩」
「そうね、でも可愛らしいとこあるじゃない?アスカも?」
「そうですね、先輩」
その頃、先頭を走るシンジたちの車はというと。
「加持ぃ、もっとスピード出しなさいよぉ」
「おいおい、無茶言うなよ葛城。後ろがついてこれなくなっちまうよ」
「ふん、つまぁんないのぉ。シンちゃん?アスカが気がかり?」
突然おやじモードに入ったミサトが思案顔のシンジをからかう。
その口元にはゲンドウに負けず劣らず怪しい笑みが浮かんでいる。
「そ、そんなんじゃないですってば。ただ、昼食の段取りを・・・」
「はいはい、そういうことにしといてあげるわ」
「・・・碇くん・・・大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
なにが大丈夫だかわからんが、シンジとレイの会話が噛み合わないのはいつものことだ。
さて、脇役へも目を向けてみるとするか。
「しょせん、俺達はこの程度の扱いか」
「まぁな」
「なぁ、この車って怪しくないか?」
「わしもそう思っとったんや」
すまんな。
やがて車は高速を降り、国道を経由して山道へと入っていく。
途中の即売所などで現地の食材を仕入れることも忘れない、当然地酒も。
到着した先は、湖畔にロッジが点在する、キャンプ場というよりは別荘地といった方がしっくりする場所だった。
各ロッジは白樺林に囲まれ、お互いのプライバシーが保たれる様に配慮されている。
ロッジにはデッキがあり、庭先にはバーベキュー用の炉までしつらえられている。
「わぁ、いいとこじゃない!なんだかドイツを思い出すわ!」
「そうだね、すっごくいいところだ」
車を降りるなり、シンジのそばへ寄ってきたアスカが懐かしそうに言う。
シンジも単純に景色に見とれている。
アスカにしてみれば、景色よりも自分に見とれて欲しいことだろう。
「シンジ!さっそく周囲の散策よ!」
「アスカぁ、まだ荷物も降ろしてないんだよ。それに僕、お昼の準備をしなくちゃ」
「うん、もぅ!」
せっかく二人きりで歩こうと思ったのに・・・バカシンジ!
アスカは先日妄想したことを実行したかったのだが、そうは問屋がおろさない。
というかそうはシンジが気づかない。
全員で荷物をロッジに降ろした後、シンジとヒカリはさっそく昼食の準備をはじめる。
「さて、はじめようか」
「碇くん、わたしはなにをすればいいの?」
「うん、洞木さんはサラダを作ってもらえるかな?」
「サラダね、わかったわ」
「僕はサンドイッチを作るから」
そう言って、それぞれが作業に入る。
ヒカリが作ったサラダは2種類。
輪切りにしたトマトにみじん切りにしたタマネギを乗せ、ドレッシングをかけたトマトのサラダ。
薄切りにしたタマネギと千切りにしたオレンジの皮、そしてクレソンをドレッシングであえたクレソンのサラダ。
シンジはというと、トスカーナ風のサンドイッチを作っている。
フランスパンを斜めにスライスし、軽く焼いたあとすりつぶしたニンニクとオリーブオイルをかける。
モッツァレラチーズやアンチョビ、トマトの薄切りや生ハムなどをルッコラなどといっしょにはさみ、熱いうちに手でギュッと押しつぶし、半分に切って完成。
完成したところで皆を呼び、デッキでの昼食となる。
「さぁ、どうぞ」×2←シンジとヒカリ
「いただきまーす」×10
「あら、おいしいわねぇ、このサラダ」
「そうですね、先輩。後で作り方聞いときましょう、ドレッシングなんかも」
「このサンドイッチって、ビールにもあうわ」
「ミサト、もう飲んでるの?」
「リッちゃん、しょうがないさ、葛城だし」
「かぁじぃぃぃぃ」
リツコとマヤは女性らしい会話をしている。
そして大方の予想通り、昼間っからビールを飲んでいるミサトとあきらめ顔の加持。
頼むから、このサンドイッチにはエビチュではなくハイネケンかワインにしといてくれ。
「こんなうまいもん食うのは久しぶりだなぁ、日向」
「そうだな、青葉」
お前ら、ふだんどういう食生活しとるんだ?
さて、肝心のシンジたちだが。
「ふぅん、こんなサンドイッチもあるのねぇ」
「うん、この前本で読んでね。どう?アスカ?」
「悪くないわね」
「ありがとう」
いつもの会話だ。
だが、誰かのためにというのが料理の上達の秘訣の一つであることは否定しない。
シンジの腕が上達した理由は、ミサトの殺人料理を食べたくない、ということもあるが、なによりも二人の家族に喜んでもらうためだ。
さて、もう一人の料理番は?
「鈴原、サラダどうかな?」
「ん?えーんとちゃうか?」
「気づけよな・・・トウジ」
「ん、なんかゆうたか?」
「なんでもない」
「さよか」
そう言ってトウジはばくばくと食べる。
こいつの食べ方で味もへったくれもあるんか?
ヒカリは赤くなっている。たとえ気づいてもらえなくてもうれしいものはうれしいのだ。
ケンスケが独り疎外感を味わっているのも言うまでもない。(笑)
「綾波、こっちはハムが入ってないから。綾波でも大丈夫だと思うよ」
「・・・ありがとう、碇くん」
「どういたしまして」
そう言って、シンジは微笑む。レイはサンドイッチを取り、口に運ぶ。
「・・・おいしい」
「そう?」
「・・・碇くんが作ってくれたものだし」
レイはうつむき、桜色に染まる。
ぶぅ。
まったくシンジったら誰にでも優しいんだから。
でも、アタシもあれだけ素直になれたらなぁ・・・
その光景を傍から見ていて心の中でぶーたれていたアスカ。
だが、シンジとレイの性格上、それが当たり前の行動でもあることに思い当たり、心中素直にうらやましがっていた。
憂いを帯びた表情が気にかかったのか、シンジが問いかける。
「どうかした?アスカ?」
「な、なんでもないわよ!」
「そ、そう」
まったくこんなときだけ鋭いんだから。バカシンジ!
「ほら!あんたも食べなさい!ぼけぼけっとしてると、全部鈴原に食べられちゃうわよ!!」
「それもそうだね、食べようか」
そしてアスカとシンジもそれぞれ昼食に没頭していく。
基本的に食事の支度はシンジとヒカリにまかされているので、その他のメンバーで後片づけをすることになる。
くじ引きの結果、今回はアスカ・ミサト・マヤ・日向である。
実際、この手の分担は決めておかないと、絶対何もやらないヤツが出てくるのだ。
「ねぇねぇアスカ?どうだった、シンちゃんのサンドイッチ?」
「あんたバカぁ!?シンジのサンドイッチなんていつも食べてるでしょうが!」
「ふ〜ん、そうおぉ?でも、これ新作でしょ?こないだシンちゃん悩んでたわよ。アスカならどんな味つけがいいかって」
「な、なによ、それ」
「いいわねぇ〜アスカは愛されてて」
「あんた、酔ってるわね?」
突然おやじモードに入ったミサトにからかわれているアスカだが、とりあえずシンジが自分のことを考えていてくれるのがうれしいらしく、少し赤くなっている。
マヤと日向はくすくす笑いながらそんな二人を見ているが、洗い物は既に二人によって終わっている。
「はい、終わりましたよ。葛城さん」
「へ?あっちゃあ〜・・・ごめん、日向くん、マヤ」
「いいんですよ」
「二人とも、ごめん」
『あちゃあ、やってもーた』顔の二人と、微笑んでいる真面目コンビ。
さて、ロッジ内のリビングに戻ってきた面々だが、それぞれが自分の合方を探す。アスカは当然シンジにかまってもらうべくその姿を探すが、シンジは見当たらない。
「加持さん、シンジ知らない?」
「あぁ、ちょっと歩いてくるとか言って出ていったな」
「むぅ〜あんっのバカ!」
「ほらほら、いくらシンジくんに置いて行かれたからってそんなに怒らない。可愛い顔がだいなしだぞ」
「もう、加持さんったら!知らないっ!」
「かぁじぃ、あんまりアスカをからかっちゃだめよん」
「おいおい、人聞きの悪い。からかうだけなら葛城の方がよっぽど・・・」
「よっぽど?なに?」
「なんでもありません」
加持とミサとのやりとりを見ていたアスカは、くすっと笑って外へ出ていった。
「あたしも散歩してくる!」
「あぁ」
「いってらっさぁーい」
そんなアスカを二人は笑って見送る。
「アスカも変わったわね」
「ああ・・・シンジくんのおかげかな」
「そうね・・・うまくいくかしら?」
「さぁな。男と女はロジックじゃないからな」
アスカが湖畔に出ていくと、トウジとケンスケが水切りをやっていた。
まるで童心に還っている様だ。男というものはいくつになっても子供の心が抜けないらしい。
「1・2・3・4・・・・12!あぁっ、またわいの負けや!」
「ふっ、こればっかりは力じゃないからな」
「ケンスケ!もう一回や!」
「いいぜ、何回でも」
アスカはそんな二人を横目に、近くにいたヒカリに話しかける。
「まったく子供ね、二人とも」
「そうね、でもいいんじゃない?」
「それもそうか、シンジなんてきわめつけのお子ちゃまだし」
「そういえば、碇くんは?」
「ん、それがどこ行ったかわかんないのよぉ」
「綾波さんは・・・あそこにいるしねぇ」
「へ?」
ヒカリが言った方向を見ると、そこには木陰で本を読んでいるレイがいた。
その白磁の様な肌、消え入りそうな透明な雰囲気はこの白樺林に囲まれた中で、妖精が少しの間だけ実体化したかの様だ。
「てっきりいっしょにどこか行ってるもんだと思ってたのに」
「いったいどこに行っちゃったのかしら?碇くん」
「ま、夕食時になれば戻ってくるでしょ、アイツのことだし」
「そうね、碇くんが夕食の準備忘れるはずがないし」
「そうそう」
それに、まだ時間もあるし・・・ね。
やはり、妄想したことが忘れられない様である。(笑)
アスカたちの予想どおり、夕食の仕込みの時間になると、シンジは帰ってきた。
今日の夕食はキャンプの定番、バーベキューである。
庭先のバーベキュー用の炉の前で、シンジと加持が炭の状態を確認している。
ようやく全体に火が廻り、あともう少しすれば炎も出なくなるだろう。
その状態がバーベキューには最適なのだ。
そこまで待てない人はマシュマロでも焼いて食べていればいい。(笑)
「加持さん?火はおきました?」
「あぁ、もうちょっとしたら安定するんじゃないかな?」
「わかりました、じゃあ食材持ってきますね」
「あぁ、頼むよシンジくん」
そのかたわらではガーデンテーブルとチェアのセッティングも済み、リツコたちが配膳を行っている。
「この辺でいいですかぁ?リツコさん?」
「いいんじゃないかしら?あまり火に近づくと危険だし」
「せんぱぁい、これでいいですか?」
「あのねぇ、あなたたち、どうして私にばかり聞くの?」
「だって・・・」×2
日向とマヤの視線の先にはすでにビールを片手につまみを物色しているミサトの姿があった。(爆)
どこにでもこんなヤツはいるものだ。
ちなみに、他の面々はというと。
「ねぇ、しぃ〜んじぃ〜」
「ちょ、ちょっと危ないってアスカぁ!」
「いいじゃなぁぃ、ね?」
「『ね?』じゃなぁいぃぃ!」
「むぅ、シンジのケチぃ」
アスカはシンジにちょっかいを出して怒られている。
「・・・・・・」
レイはそんな二人を見ている。
「こらっ!鈴原!」
「す、すまん、いいんちょ。腹が減ってがまんできんかったんや」
トウジはつまみ食いをしようとしてヒカリに怒られている
「平和だねー」
ケンスケはつぶやきつつ、写真を撮っている。
彼はこのために連れてこられた様なものだ。(笑)
その頃青葉は、キャンプファイヤーをやれないのですねていた。
「どうせオレなんて・・・」
お約束だ、許せ。
「さぁ、はじめるぞ!」
「はぁーい」×11
加持の一声で、宴がはじまる。グラスが触れ合う音がし、当然のごとくミサトの一気飲みが始まる。
この人には3リッター缶を持たせておいた方が良いのではないか?どうせ消費単位はガロンだろうし。
「んぐんぐんぐ・・・ぷっはぁ〜、さいっこぉ〜」
「葛城、飲み過ぎるなよ」
「わぁかってるってぇ」
「無駄ね」
リツコの冷静なツッコミが入る。
一瞬、宴の後の惨状がミサトを除く全員の脳裏に浮かぶ。
倒れるグラス、食い散らかされた食材、散乱するつまみ類と言ったところか。
そして撃沈された屍。(笑)
「はあぁ〜」×11
さすがに慣れているためか、いちはやく立ち直ったシンジの声がみんなを現実に引き戻す。
「さぁ、ぼちぼち焼けてきたから、みんな食べましょう!」
「そ、そうね」
各自自分の好みの食材を取っていく。
きちんとレイのために少ないながら、魚介類も用意されている。
皆、そのことは知っているので魚介類に手をつけるものは少ない。
あら?なにやってんのかしら?
アスカはシンジが食べずにツーバーナーの前でなにやら作っているのに気づいた。
『ちゃあ〜んす』の顔をすると、自分の皿に肉と野菜類を取ってシンジのところへ歩いていく。
『自分の』というところにアスカの女心がある。
「シンジ、なにしてんのよ?食べもしないで!」
「あ、あぁ?アスカぁ?」
「はい、これ。食べなさい!」
「あ、取ってきてくれたんだ、ありがとう」
『食べなさい!』とはまるで好ききらいしている子供に対する言い草だが、シンジもこれがアスカの言い方だと知っているので、別になんとも思わずに微笑み返す。
「アタシが持ってきたんだから、ちゃんと残さず食べるのよ!」
「わかってるよ」
「ところであんた、なに作ってんのよ?」
そこまで言って、アスカはシンジが作っていたものがなにか気になったらしい。
「ん?そういえばそろそろいいかな?」
「なにが?」
「ちょっと待ってね」
そう言って、シンジは鍋の中から何かを取り出して切り分け、既に用意してあった皿の上に盛る。
「アスカ、はい、これ」
「これって、あんたねぇ!って、これ、ヴァイス・ブルストぉ!?」
「そう」
「『そう』って、あんた・・・これ、どうやって!?」
「どうやってって、作ったんだけど?」
「あんたねぇ・・・」
「ま、食べてみてよ」
シンジがアスカに渡した皿の上には、白いソーセージと付け合わせのザワークラウトが乗っていた。
アスカもまさかこんなものが出てくるとは思わなかったらしく、返事が単調になっている。
呆然としているアスカを尻目に、シンジは炉の片隅からアルミホイルに包まれたものを持ってきた。
「ほら、アスカ。冷めちゃうよ、早く食べてみて」
「う、うん」
アスカはソーセージを口に運ぶ。
『プチン』と皮がはじける音がし、肉汁が口の中に広がる。
「・・・!!・・・おいしい・・・」
「そう?よかった。じゃ、これも」
シンジがアスカの皿の上に乗せたものは先程アルミホイルに包まれていたもの。
ホイル焼きにされたジャガイモだった。
アスカはザワークラウトに続き、ジャガイモを口にする。
ジャガイモにはバターと塩がかけられている。
「・・・なんでこんなにおいしいのよ」
「あ、ジャガイモはキッチンペーパーを濡らしてからアルミホイルで包んで焼くの、そうするとふっくらと焼けるんだ」
「そうじゃなくて・・・なんで・・・こんなの作ったのよ・・・?」
「なんでって?こないだドイツのソーセージ食べたいって言ってたじゃない」
「へ?」
「いや、だから、こないだ食べたいって言ってたから作ったんだけど?いい機会だし」
なにげないあたしの一言からここまでやってくれるなんて・・・シンジぃ。
アスカは自分の瞳が潤みはじめているのを感じた。
ここでシンジが気のきいた言葉でもかけようものなら一気に泣き出していたことだろう。
だが、シンジがそんなことをするわけがない。
「あ、それ、材料足りなくてアスカの分しかないから、ミサトさんに盗られない様にね」
「わかってるわよ!」
誰にも渡すもんか!
・・・こんなにシンジの気持ちがこもったソーセージ・・・
あれ?そういえば・・・?
「あ、あれ、あんた昼間いなかったのひょっとして・・・?」
「そう、隠れて作ってた」
「・・・バカ・・・」
ほんっとにバカなんだから・・・精霊流しの時だって・・・なんでそんなに・・・
「シンちゃぁ〜ん!」
「あ、ミサトさんが呼んでる。持って来てくれてありがとう、アスカ」
そう言って、シンジはアスカが持ってきた紙皿を持ち、ミサトの所へ行った。
「・・・礼を言うのはこっちよ・・・」
ミサトにからかわれているシンジを見つめながらアスカは一人つぶやく。
そこへヒカリが近づいてくる。その表情はどこかうらやましそうだ。
「アスカ!どうだった?碇くんのソーセージ?」
「ヒ、ヒカリ!?知ってたの?」
「まぁね、線引いて消してあったけどメニューに書いてあったし。食料買ってた時に材料揃えるの見てたからね」
「そうなんだ・・・」
「ここまでするのに、なんであと一歩こないのかしらねぇ?」
「あいつはそんなこと考えてこんなことするやつじゃないわよ」
「それもそうね、碇くんだし」
「はぁ・・・お互い苦労するわねぇ」
「まったく」
恋に悩む乙女たちの視線の先には肉の取り合いをしているバカ二人の姿があった。
「あー!トウジ!それは僕が焼いてた肉じゃないかぁ!」
「ん?さよか?すまんなセンセ」
「はぁー」
「大丈夫だよ、シンジくん、まだまだあるし」
「そうですね、加持さん。あー!またぁ!」
「さらばや!!」
「トウジぃ!!」
そこへ酔っぱらいの乱入。(笑)
「ほらぁー!シンちゃん!加持ぃ〜!飲みなさいぃ!」
「僕まだ未成年ですよ?ミサトさん」
「そんなの関係なぁ〜い!保護者の私が許す!って言うか飲め!!」
「加持さぁん・・・」
「あきらめろ、シンジくん」
「そんなぁ〜なんとかして下さいよぉ〜」
宴も終わり、無事だった面々で後片づけを終えた後、シンジは一人で湖畔に来ていた。
ガタパウトチェアに座り、その傍らではシングルバーナーの上でパーコレーターが静かな音を立てている。
沸き上がり、キャップに当たるお湯の色が徐々に茶色く染まっていく。
もうすこしでコーヒーが淹れ終わるだろう。
見上げると、高原ということもあるが、驚くほど澄み渡った星空が全天に広がっている。
湖面を渡る風が火とアルコールで火照った体にはちょうどいい。
「きれいな星空だなぁ」
「三日月だし、月光もじゃまをしないからな」
シンジの独り言に、いつのまにか背後に来ていた加持が相槌を打つ。
その手にはスキットル。ウイスキーかブランデーでも入っているのだろう。
「加持さん・・・」
「なんだい?」
「みんなは?」
「あぁ、疲れて寝ちまったみたいだな。大半は葛城につぶされたみたいだが」
「そうですか・・・」
そう言って、二人は顔を見合わせ苦笑する。
「加持さん、コーヒー飲みますか?」
「あぁ、いただこう」
シンジはシングルバーナーの火を消し、コーヒー豆の沈殿を待つ。
そしてパーコレーターからコーヒーをカップに注ぎ、加持に渡す。
加持は黙ってそれを受け取り、ひとくちすすって言う。
「うまいな、さすがシンジくんだ」
「コーヒーの淹れ方は、リツコさん直伝ですから」
「そういえば・・・そうだったな」
そう言って、加持はコーヒーの中にスキットルの中身を注いだ。
ブランデーの甘い香りが漂ってくる。
「なぁ、シンジくん」
「なんですか?」
「シンジくんには・・・感謝してる」
「感謝・・・って?」
「使徒との戦いもそうだが、アスカのことだよ」
「アスカの?」
「そう、シンジくんと出会ってアスカは変わった、とてもいい方向にな」
「・・・僕はなにもしてません・・・アスカは・・・アスカは自分で乗り越えたんですよ・・・色々なことを」
「まったく、シンジくんらしい答えだな・・・君は・・・もっと自分を誇っていいんだぞ」
そう言って、加持はコーヒーを口にする、続いてシンジも。
星は黙ってそんな二人を見ていた。