いままでのあらすじ

 実は魔法少女だったりした惣流アスカちゃんは、お供のシンジ君を従えて今日も元気に秘密結社『戦略自衛隊』相手に魔法を使って戦ったり遊んだりたいへんです。
 「戦略自衛隊」の首領、霧島マナちゃんや、見習い魔法少女のレイちゃんと同じクラスでお勉強したり。そういえば、ムサシ君とか、ケイタ君も同じくラスでしたね。
 そんなこんなで、ぬるま湯の中でなれ合いをやっていたある日、アスカちゃんの魔法石の精・ユイ様がとんでもないことを告げたりしました。
「ヒゲ帝国が悪い魔法でこの世界を狙っています。『アスカちゃんと愉快な仲間達』でこの世界を救ってください」
 アスカちゃんとシンジ君以外にはなんだか気に入らない呼称だったようですが。
 そういうことを子供たち(しかも問題児)に押しつけていーものかどうなのか、おとな達が好き勝手言ってる間に「打倒! ヒゲ帝国」の旅に出発です。旅費はみんなの両親のクレジット・カード持参なので完璧です。
 影の薄い二人組とか、ピ●クの怪獣とかケバイおばさん達をぶちのめして「ヒゲ皇帝」のお城まであと少しの場所まで来たとき、シンジ君が『ウシチチおばさん』にさらわれてしまいました。
「アタシのゲボクをパクるなんてイイ根性してんじゃない。誰にケンカを売ったか教えてあげるわっ」
 中指おったてて、宣戦布告です。でも下品ですね。あと、後半のセリフは未来の宇宙で戦艦に乗ってケンカしている山本洋子さんのものですから注意してくださいね。
 シンジ君を助けることに、イチもニもなく同意するマナちゃんとレイちゃんのシタゴコロに不安を覚えつつ、いざ出陣です。

 

 


な〜んつーのはRedな大嘘なので、忘れちゃった人は前の話を読んでね。


………………疲れてるな、オレ。

 

 


 春の嵐 #(しゃ〜ぷ)
   いや、ほら……さっき魔女っ娘だったし(死)

片山 京   


 

 

 “きっかけ”というものは些細なことだったりするわけで。
 いやいや、結果が大きくなるから、“きっかけ”となった事例自体が小さくみえるとも言えるんだけど。
 その日、綾波レイちゃんが駅前にいたのも、ただ「天気が良かったから」という他愛もない理由からだったりするわけで。駅のロータリーにある時計台。時間を確認しようと振り向いたら見知った少年が一人。声を掛けようとしたら、肩から大きめの鞄をぶら下げた目立つ女の子が駆け寄ってゆく。
「あれ? アスカとシンちゃん」
 と思ったときには、ポーチからPHSを取り出していた。昨夜登録したマナのPHSの番号を探し出す。
「あ、マナ? 今、駅前。ちょっとでてこない? マユミも誘ってさ……」

 

 芦ノ湖遊覧船、甲板

 

 湖だけにそれほど波があるわけじゃない。船首の方で笑ったり、じゃれ合ったり、いちゃついたりしてる監視対象を横目に、マナの背中をさすってたりする。
「何で、こんなので船酔いするかなぁ」
 ぼやくぼやく。
「う゛〜私がこんな目に遭うのも、全部アスカが悪いのぉ」
 涙目である。
 マナのうめき声をよそに、本日は辞書じゃないかと思わせるようなでっかいハードカバーを読んでいたマユミが顔を上げる。ブックカバーが邪魔でタイトルが分からないんだけど、背表紙が三〜四センチ近くあったりもする。やりようによっては、マユミでも人でも殴り殺せるんじゃ無いかな?

「ちょっと肌寒いわねぇ」
「まぁね、季節的にはちょっと早かったかな?」
 とか言いつつ、舳先の特等席を占領中。一昔前なら、沈没映画のまねをしたがる連中でごった返したかも知れない。
 それはともかく、グリーン系のツーピースがよく似合っているアスカ。待ち合わせ場所でのとってつけたようなシンジの褒め言葉にも、今日ばかりは悪態が出ない。
「まっ、上着着てくるようにって言ってくれたモンね」
 本日すこぶるご機嫌麗しい様子。
「で、この次はどこに連れてってくれるの?」

 

 箱根山展望台

 

 ロープウェイで山頂へ。初夏の気まぐれな陽気のおかげで、本日は今ひとつ気温が上がってくれない。とはいえ、天気は上々。午後になればそこそこ気温は上がるんじゃないかな? 山の上だけど。
「ってわけで……」
と、持参した鞄の中でなにやらごそごそ。
「じゃーん。アスカ様お手製のお弁当よ」
 明らかに作りすぎのバカでっかいお弁当箱である。本日の気合いの入りようというものが、これだけで分かる。いや、分かりすぎるぐらい。
 にしても……シンジの胃の物理的限界を確実に超える量のそれは……ちょっと……
 展望台から僅かに奥まった場所。屋根のついた『いかにも』な休憩所を占領して、お昼のひととき。いや、まぁ、ソレはソレでいいんですけど……
 ふたり並んで、一つのお弁当をつつく……ちょっと……いや、かなり……いやいや、すんごく恥ずかしい。そういうことを想定していたのなら、バカでっかいお弁当も納得。シンジにしてみればさらし者以外の何物でもないわけで――このデートでアスカが何を望んでいるのかまだ分かっていなかったりもする。いやー、やっぱ手の内を知り尽くしたマナならともかく、シンジくんがアスカちゃんの心を読もうなんて二、三年早いと思うよ。うん。

「きぃぃぃぃぃぃぃぃ、あ〜すぅ〜かぁ〜……なんてうらやましい……ぢゃなくて、なんて破廉恥なっ……ってゆーか、なっまいきぃっ!」
 ちょっと錯乱しているマナと、
「アスカ……だいたぁん……」
指をくわえて物欲しそうなレイ。欲しいのは弁当なのか、それとも……
 そんならぶらぶなふたりの世界から二十メートルぐらい離れて、例の三人組。血の涙を流さんばかりに唸るマナ。興味津々とばかりのレイ。ここに至って、興味なさげに読書にいそしむマユミ……健康的なんだかそうじゃないんだか微妙な線上で見事なバランスを保っている。たぶん、本のタイトルが分かれば不健康な方に転がり落ちる気もするけど。
 碇兄妹と同じような休憩所に、身を隠すようにかたまっている少女達。凄く怪しい。
 売店で買ったパンで侘びしい食事をとりながらの監視作業。何かの拍子に我に返ってしまうマナが、先のような恨めしげな呻きを漏らしたり。
 まぁ、天気もいいことだし、おおむね平和であることには間違いない。
 なぜ、朝っぱらから自分まで引っ張り出されたのか……未だに納得できないながらも、山々を渡ってきた春の風に、
「こんなのもいいですわね」
と妙に達観しつつ、また一ページ。
 なんとゆーか……大物である……たぶん。
 ケーブルカーの駅周辺や散策コースは家族連れでいっぱい。まぁ、国民的大規模休暇の真っ最中なんだから、十分に予想されたこと。
 で、どこの観光地でも地元の人間しか知らない穴場があったりするもので、ここはそんなところだったりする。数年前に整備し直されたばかりだけど、ここに至る道が少々フクザツだったりする。そこそこの人影はあるが、悪目立ちする幼いカップルの邪魔をしようなどとの無粋な輩は居ないようだ。居たら居たで、馬に蹴られるよりも痛い目に遭うのは必至だけど。
 とゆーか、注目を集めているのはマナやレイの方だったりする。
「あのおねぇちゃん、どうしたの」
 と無邪気に問う我が子を、強引に引きずってゆく親の姿が数分に一度の割で見る事ができるのに早く気づいて欲しい。確かに、休憩スペースを囲む腰ほどの高さの壁に身を隠し、目から上だけを出していちゃぁ、ちっちゃなお子ちゃまどもの注目の的になるのも納得。とゆーか、アスカとヒカリを欠いてはツッコミ役が誰もいないのがこのグループの欠点だったりする。……マユミは夢の国方向へ三歩分ぐらいずれてるし。

 

「ん? どうしたの? アスカ」
 さっきから、どうにも外を気にするアスカにさすがのシンジも声をかける。
「んー、なーんか視線を感じるのよねぇ……知り合いの」
 鋭い。
「でもまさかね……気のせいでしょ」
 と、卵焼きを頬張る。美味美味。も一つつまんでシンジの方に差し出す。あまりにも自然な流れだったから、シンジもつられてその卵焼きにそのままかぶりつく。
 ん?
 硬直。
 自分たちが何をやったか、理解するまでしばし。
 『ぽむっ』っと、ふたり同時に真っ赤になってみたり。

 

「あーっ、どっさくさに紛れてぇぇぇぇぇ。なかすなかすなかすなかすなかすなかすなかす、なかすぅってゆーか、なかすぅ〜」
 と、叫び出しそうなマナの口をふさぎ、ベンチになってる壁の影に押し倒す。
「しーっ。ここで見つかったら尾行してたのバレて、シンちゃんに嫌われちゃうじゃないのっ」
 右手で口をふさぎ肘でマナの左肩を押さえ込み、左手は右腕を拘束している。なかなか仕事が確実。んで、耳元で囁いたりするモンだから……ねぇ。
 じたばたと、別の意味で焦ってレイを押しのけようとするマナ。わけが分からず、それを許すまじとさらに力を込め、足を絡め合って動きを封じにかかるレイ。
 しばらくそんなことをしていたけど、やってるのは狭いベンチの上。死にものぐるいのマナが上にのしかかるレイをたたき落とす。
「ったく、錯乱して襲いかかってんじゃないわよっ。レイはともかく、私にはそんな気ないんだから」
 「ともかく」ってなんだ、「ともかく」って。
「私だってそんな趣味無いわよ、たぶん。マナが叫びそうになったから口押さえただけじゃないっ」
 「たぶん」ってなんだ、「たぶん」って。
「私は、女の子同士の見せられても……どっちかって言うと耽美の方が……でも後学のためにって言うか、見せてもらえるんなら拒みはしませんけど」
 どさくさに紛れて何を言うか、マユミ。

 混迷の度を深める人間関係の中、ストーキング対象の碇兄妹を見失ったことに彼女たちが気づくまで、もうしばらくかかるんだな、これが。

 

 で……図らずも尾行者をまいた碇兄妹。あちこちまわって、温泉街の露天を冷やかしつつ駅へと向かう。でも、まだちょっと遊び足りない気がする。
 何か面白いものでもないかと見回してみるアスカ。ふと、視界に湯気が入る。
「ちゃ〜んす♪(ぼそ)」
 そういえば、ここは温泉街。
「シンジっ。温泉入ろっ。温泉」
 時間がまだ早いから、泊まり客以外の一般の入浴を受け付けてくれる旅館もあったりする。
 銭湯よりやや高価ではあるが、タオルやら何やらをつけてくれるから、別に用意などは必要ないし。
 必要ないんだけど……
 シンジの返事も待たず、組んでた腕をぐいぐい引っ張ってなかなかいい感じの門構えだったりする旅館へ引きずってゆく。二人とも、顔が真っ赤だったりするのがほほえましいけど。

 

 とは云ったものの……
「なっ……何で混浴かな?」
 それは、アスカさんが女将さんに手を回して協力させたからです。
「こっ、細かいことは気にしないのっ」
 確かにそんなこと気にしている場合じゃないよね。
 何しろ、背中には厳重に巻いたバスタオル越しとはいえアスカの背中。もう、心臓バクバクである。
 不自然な沈黙が二人の間におりる。
 そうなったらなったで、「背中に感じる相手が気になる指数」が幾何級数的に上昇したりするわけで……温泉のお湯が湧き出してくる音をBGMに、何となくそのままに時を過ごす。

 

「見失っちゃった?」
 めちゃめちゃ息が荒い。山頂付近の展望台から駆け下りてきたみたいなものだし……
「マナが変なコトするからでしょうがっ」
 と言いつつ頬が赤いのは……走ってきたから。別に、さっきのアレが良かったとかそういうわけじゃない……たぶん。
「マユミはどこ?」
「さぁ?」
 碇兄妹が居ないことに気が付くと同時に、ケーブルカーの駅へ向けてダッシュをかけたこの二人がマユミの行方を知るわけがないじゃないか……とゆーか、ケーブルカーの中でも足踏みしながらドアに張り付いていた体たらくだから、今までマユミの不在に気が付かなかったとしても不思議じゃない……薄情者どもめ。
「それはともかくっ」
 一言ではぐれた友人を切って捨てるマナ。なかなかイイ性格をしている。
「アスカたちはどこっ?」
「…………アテがあったんじゃないの?」
 素で問いかけるレイに、「キッ」と音がしそうな視線を向け、
「そんなのあるんなら、ここでこんな事言わないわよ」
道理ではあるけど……つか、逆切れだよぉ。
 二人の間に気まず〜い沈黙がおりる。
「お嬢ちゃんたちっ、このおまんじゅうどう? 試食もあるよ!」
 雰囲気が読めないのか、近くの土産物屋のおばちゃんが大声で呼ばわってるのが聞こえる……
「コホン……とっ、とにかくっ。心当たりを探すのよっ」
「アテがないんでしょ」
 レイのれーせーなツッコミに、再びマナがかたまる。
「どうするの?」
 追い打ち。
「う゛〜」
 半泣きになって頭を抱えているマナを眺めながら、
「これって面白いかも」
とか、外道な事を考えてるレイだった。

 

 その頃、マユミは……
「やっと落ち着いて読めますね……」
 一人、展望台に残って本を読んでいたりする。大物である。

 

 背中に当たっていた濡れたバスタオルの感触が一度離れ、今度は素肌の感触。
「こっ、こっち見ないでよ……」
「うっ、うん……」
 大胆にも、身体に巻いていたバスタオルを取って、身体の前の方に当てるだけにする。
 もういちど、さっきと同じようにシンジに背中を預ける。
「いいお湯ね……」
 なんだか自然に言葉が出てきた。よしよし、いい感じ。
「うっ、うん。そっ、そうだね……」
 対して、シンジはかわいそうなほど緊張している。今まで父子家庭で女っ気がなかったとはいえ、過剰反応過ぎ。相手が相手だからかも知れないけど。
「シンジさぁ、今の生活、どう?」
「どう……って?」
 唐突なアスカの問いに、まだ混乱中のシンジがまともな返事を返せるはずが無く……
「ママたちがこういうことでさ、一緒に暮らしはじめて一ヶ月経つけど……その感想みたいなのかな」
 シンジに正常な思考能力が帰ってくる。とりあえず、思いついたことから並べてみよう。
「えっと……前よりも全然いいと思うよ。うちに帰ってきて誰か居るって言うのは初めてだし……なんだか『帰ってきたんだな』って思うから」
 シンジの場合、物心付いたときには母は亡かったわけで……
「キョウコさんとかアスカのおかげで、家族ってものが分かりそうな気がする……」
 男手一つで育ててくれたゲンドウには悪いが、やはり、家を空けがちだった父はどこか遠い存在。それでなくても、男親と息子はどこか反発するものだし。
 なんか偉そうな事言ってるね、と照れたように頭をかく。
 アスカからその表情は見えないけど、きっとそうなんだと確信めいたものがある。
 それにしても、緊張が一気に解けたみたい……根は単純、か。
「アスカは……どう?」
「なっ、何が?」
 むぅ、まさかシンジも聞いてくるとは思わなかった。シンジの言葉を分析していた思考が、新たな問いかけに追いつかない。
「ん? 今の生活」
 内心あたふたしているアスカを知ってか知らずか、シンジは淡々と。だから、アスカもすぐに落ち着ける。このあたり計算してるとしたら、かなりのくせ者。
「今の生活ねぇ……正直、おじさまがほとんど家にいないからわかんないのよね……」
 そりゃそうだ。
「でもね……」
「え?」
「でも……良かった……良かったと思う」
 「何が?」と問うこともなく、なんとなく「ああ、そうなんだ」と納得。よく分からないけど分かったような気がする。
「まぁそういうわけで、これからもよろしくね、お兄ちゃん」
 合わせた背中の方に、少しだけ体重を乗せる。それでもしっかり支えてくれる所なんかは「男の子なんだな」と思う。
「ねぇ、シンジのタオルどこ?」
「ああ、そこの桶の中……」
 ちょっと手が届かない。
「目、つぶってくれる?」
 えもいわれぬ強制力を持ったお言葉。
「目、閉じてくれた」
 アスカの問いかけに激しくうなづくシンジ。
 アスカの柔らかな背中が離れる・・・ちょっと寂しい。
 水をかき分けて移動しているのが伝わってくる。ちょっとだけ興味がわいて、少しだけバレないように薄目を開けてみる。……男って悲しい生き物……
 大事なところはタオルの影で見えないけど、胸の方の柔らかそうなふくらみがタオルを押さえる腕で形がちょっと変わったり、形の良いヒップが見えたり。慌てて目を閉じ直したけど、耳まで真っ赤になったりするのは止められない。
「じゃ、シンジ……あら?」
 ヤバイ……
 心臓が冷や汗かいてる気分……
 全身が心臓になったみたいな……
「真っ赤じゃない……もしかして湯当たり?」
「ん〜、そうかも」
 とりあえず便乗。やっぱり命は惜しいし……
「んじゃ、悪いけどもう少しそのままね……」
 とか言いながら、濡れタオルで目隠し。
「扉が閉じる音がするまで、これ取っちゃダメよ」
 絞ったけど、まだ水気満載のタオルをぎゅっと。
 信用されてるんだから、されてないんだか……
 でも、されるがままになっているシンジの背中を見てると……悪戯したくなってくる。小学校の修学旅行のお風呂なんかで、シャワーで頭洗っているマナの後ろから新たにシャンプーをかけ続けた時みたいな……
 うずうず
 昔やった悪戯を思い起こしたからには止まらない。
「シーンジッ」
 なにやら真っ赤になっているシンジの背中を「ぎゅっ」と抱きしめる。年齢のわりに豊かなバストをその背中に押しつけるとかどうとか言うことは全く思考の外。
「え? あっ、わわわわわわわわ」
 錯乱して暴れそうになるシンジを抱きしめる腕にちょっとだけ力を込める。
 リップクリームで桜色になった唇を耳に寄せ、
「これからもよろしく、お兄ちゃん」
 それだけ言うと、頬に軽く唇を触れさせ大慌てで湯船から飛び出す。バスタオルを身体に巻き付け直すのもそこそこに、脱衣所に駆け込むまで本当に「あっ」という間。
 しばらく放心したあと、そっと、頬に手を触れてみる。さっきアスカが唇で触れたそこに。
 またしばらく放心。なんか、いろいろ思うところがあるみたい。
 照れ隠しのためなんだか、やけにきつく結ばれた目隠しを取って周りを見回す。やっぱり一人。
 ほっとしたのか、肩の力がやっとこさ抜ける。
 ふと、さっき背中に押しつけられた柔らかなモノに考えが至る。
「あっ」
 何に気づいたのか、急に背を丸めて、
「膨張……してしまった……」
男の子だからね。

 

「きす……しちゃった」
 ほっぺに軽くだけど。
「ハダカで抱きついちゃったし……」
 あのぬくもりを忘れないように、自分を「きゅっ」と抱きしめる。
「えっと、何も着けていなかったんだから……」
 赤かった顔がさらに1ランク上の赤に染まってみたり。……このままだと、頭から湯気が出てもびっくりしないぞ、うん。
 なにやら口元がだらしなくゆるみ出す。なに想像してるんだか……

 くちゅん

「服、着なきゃ……」

 

「しんじぃ〜、おまたせ〜♪」
 髪は濡らさないようにしていたとはいえ、女の子の身だしなみにはかなり時間がかかる。男の感覚で時間とか予定を立ててたらえらい目に遭うので注意しよう……
「ふぁ」
 待ちくたびれたシンジはこのていたらく。宿のロビーにあるソファーで半分寝てたらしい。
 そんなこと気にならないぐらいの超ご機嫌のアスカは、シンジの左腕に抱きついて肩に頬をすり寄せる。
 なんか猫みたい……
 と、思ったけど口にするのはやめておく。なんだかうれしそうな……ちがうな、幸せそうな顔を見ていたらそんなことはどうでも良くて……

 ひとしきりすり寄ったら満足したのか、抱きついていた左腕をアスカが引っ張り上げる。
 売店の兄ちゃんとかの視線が痛ひ……
「で、次はどこに連れて行ってくれるの?」
 温泉に浸かったから、予定狂いまくりなんですけど……
 腕時計を確認。けっこういい時間。財布の中身を思い出してみる……よし。
「たまには外で夕飯食べていこっか」
 そう言って、アスカの手をしっかりと握りしめた。

 

 夕焼けに染まる空。
 宿泊客が繰り出し、賑やかな温泉街。よ〜く知っている二人がマユミの視界にはいる。
「あ、マユミ〜」
 手、振ってるし。
 別れたときにはなかった大荷物を手に駆けてくる二人。
「どこいってたの?」
 レイからの問いに、それはこっちが聞きたいです……とは言わず、
「あのまま本を読んでいたんですけど……風も冷たくなってきましたから」
と言うにとどめる。 よくできた娘です。
「じゃん」
 と、レイが擬音付きで差し出したこの温泉街の紙袋。のぞき込んでみると、お饅頭の紙箱。
「これは?」
 地元の人間にはとことん縁がない物だし。
「そこのお土産やさんのおばちゃんが安くしてくれたの」
 満面の笑み。まぁ、転校したてだからこのあたりのものが珍しいんだろうね。でも、値切るかなぁ……ふつー。
「っていうか、試食しすぎて買わないわけに行かなくなったっていうか……」
 こちらは、途方に暮れたようなマナ。 地元観光地のおみやげというのは、地元民にはほとんど意味のない物であるわけで……厳しい財政の中、割高になってるおみやげ物の購入は辛いところ。
「それはそれは……で、アスカ達は見付かりました?」
 無言で顔を見合わせるレイとマナ……不自然な沈黙が、またこのあたりを支配する。
「ダメダメですね」
 まさか「試食に夢中で、すっかり忘れていました」などと本当のことが言えない二人に、マユミの冷静な評価が追い打ちをかける。
「……あ゛〜むしゃくしゃするっ。こーゆー時は歌って発散するのよっ」
 よく分からないキレ方をしたマナに引きずられ、街へと帰ってゆく……家路につくにはもうしばらくかかるんだけどね。

 

「おっはよ〜」
 連休明けて初登校。
 なにげに絶好調なアスカが異様なナマモノを目にして固まる。
「マナ、レイ……何でもう来てるの?」
 ほら、いつもはチャイムと競争だし。
「アスカもね……」
 いよーに座った――荒んだ、の方が正しいかもしれない――目をしたレイに切り替えされて「うぐぅ」と、言葉に詰まる。タイヤキ食い逃げ犯が、この際関係ないことははっきり明記しておく。
 家事全般を自分でやってるから仕方ないと言えば仕方ないんだけど、ね。
 とりあえず、今日1日出れば明日は土曜日でまたお休み。全員たるみきっている……それどころか学校に来ないやつもいるし……
 そんな中で、いつもは遅刻ぎりぎりの四人が余裕を持って登校してくるのは……不自然だわな。
「シンちゃん、ちょっとアスカ借りるわね」
 その穏やかな確認にも、うなずくしかないシンジだった……目が怖いし。

 

「んで、火曜日はどこに行ってたの?」
「どっ……どこって、うちに……」
 冷や汗かきまくりで適当なことをのたまう。
「うそつき」
 地獄の底から聞こえてきたんじゃないかっ、てぇぐらい底冷えのする一言を吐くマナ。ただ、教室の端につれてこられただけとは思えない……異世界に来たのかな……
「駅での待ち合わせ……」
 レイの一言に、見ててわかるぐらいアスカの顔が青ざめる。
「展望台で食べさせてあげたり……」
 今度はマナ。かわいそうなぐらい顔全体が引きつるアスカ……
「「挙げ句の果てには、私たちを撒くし……」」
 さらに二人同時。まさしく『うらみつらみ』。まぁ、あれから日がとっぷりと暮れるまでカラオケ歌い倒したあげく、門限に間に合わなくて父親にこっぴどくしかられたんだけど……逆恨みだし……
「あんたたち……もしかして、尾行してたの?」
 もしかしなくてもそうである。
「そんな些細なことよりっ……
 抜け駆けしないって誓い合ったあの夕日は嘘だったのね……」
 そんな誓いはしてない……つか、夕日が嘘だったのか?
 なんだかよくわからないマナの妄言が異様な迫力を醸し出している。
「で、なにやってたの?」
 まさか混浴とは言えない……言葉と同時に肩に置かれたレイの手が小刻みに震えているのが怖い。
「ちょっとお出かけを……」
「つまりデートである、と?」
 念を押すように、マナが間合いを詰めてくる。
「あ……はは、そうとも言うかも……」
 そうとしか言わないと思うが……あれを見られてこの調子なら、二日前に家の掃除をした後にシンジに甘えたり、洗濯をしてからシンジに抱きついたこと。昨日、夕飯のおかずを買いに行った時にシンジと腕を組んだり、お風呂上がりにシンジに膝枕してあげたこととかがバレるとなにされるか分かったもんじゃない。
「ところで……」
 何とか外面を取り繕ったアスカ。
「二人とも、あの日……アタシたちのあとをつけてたのよね?」
 マナとレイ、顔を見合わせたあと、ためらいがちにうなずく。とりあえず、それがほめられたことじゃないことは自覚している様子。
「そんなストーカーまがいのことをする女って、シンジが知ったらどう思うかしら……」
 二人の動きが止まった。ことの重大さに気づいたのか、こめかみを“つぅ”と冷たい汗が流れ落ちる。
 そーいやそーかも。
「で、二人とも、言い残すことは?」

 

 結局、
「シンジにちょっかいを出さないこと。
 どちらか一人でも抜け駆けしたら、連帯責任としてチクるからヨロシク。お互いに監視してなさい」
「となり組」も真っ青な相互監視システム――二人組でシンジにアタックしたところで仕方がないし、片方を出し抜けばもう片方が黙っちゃいないだろうし――を組み上げ、満足そうに席へと戻ってゆく。
 敗者たちは、恨めしそうに見送ることしかで……
「マナ……」
「大丈夫。次の作戦があるから」
なかなかたくましいご様子で……

 

 まぁ、そういうわけで。マナとレイを牽制する材料を手に入れたアスカちゃん。このあと、テストでひと騒動あったり修学旅行で大騒ぎしたりお話は尽きないんだけど、ここまでということで。
 人一倍元気が有り余ってる彼女たちのことだから、これですむとは思えないけど……

 

 


Ver.1.00 20 Sep,2000
(春の嵐# 了)


あとがきかも知れない

 ちゅーわけで、お久しぶりの片山でございます。

 おおかた1年のご無沙汰と言うことで……去年の今頃は入院とか言ってたんだっけ……住んでたのも大阪だったし(今は都内です)色々ありましたです。
 色々ご意見の向きはあろうかとは思いますが、 一応の区切りと言うことで。
 今後は読み切り短編として、この話をぼちぼち書いてゆこうか……とか考えています。
 そんなわけで、連続したお話しはここまでと言うことで。
 ご声援、ご感想ありがとうございました。

 




まんた☆彡からの一言

ちゅうわけで、前回の一言で期待してますって書いたデート編です。

片山さんありがとうございますぅ。


期待通りのらぶらぶでもうごろごろしちゃいました。

アスカ×シンジパートはバリバリLASなんですけど、

どうして、それ以外の女の子達はあんなに()な人たちなんでしょうか?

やっぱ、LASの基本なんでしょうか?

そこんところが、冒頭のあらすじと同じくらい気になって、夜も眠れません(ぉ


えぇ、まぁ、こんなとこで私の一言は終わりにします。

次回も期待しております(ニヤ

それでは…。



ここから戻れるわよ