ようやくにして“碇”騒動も沈静化してきた今日この頃。
5月の末には楽しい――皆が涙を流して喜ぶ――中間テスト、6月の真ん中にはこちらは本当に楽しい修学旅行が控えている。
そういうイベントにもまだもうちょっと先。まだまだ生徒達も落ち着いたもの。
ゴールデンウイークは、カレンダーの都合でまとまった休みになりそうにないし。
もっとも、“葛城組”こと2−Aは……まぁ、こうなることを見越してこのクラス編成にしたのだから所期の目的通りなんだけど……それでも、たまに、ちょっと後悔しないでもない。職員室で、出涸らしのお茶なんぞをすすっている冬月教頭なんかはたまに考えることがあるわけだ。
失敗だったかな?
そういうのを顔に出さないのが年の功というもの。
第壱中学の誇る狸オヤヂの机には書類が一通。封筒は第二東京のとある中学校のもの。あ、いや『狸オヤヂ』って……んなもん誇っても恥ずかしいだけなんで、「秘密兵器」ということにして世間様一般には内緒なんだけど。
第三新東京市立第壱中学校2年A組……つまりは“葛城組”の中で主だった者――そういう連中のためにこのクラスができたようなものだけど――といえば、碇シンジ・アスカ兄妹、洞木ヒカリ、霧島マナ、山岸マユミ、鈴原トウジ、相田ケンスケ。ブラックリストギリギリ手前の面子だ。どう見ても巻き込まれたとしか思えないヒカリ、シンジという名も見えるけど、正体を知ったら……意見は変わると思うよ、ホント。
このメンバー、アスカ、マナ、マユミ、ケンスケといった知能犯がそろっているため、相当やばいこともこなしているがいまだ見つかったことがない。監視をしやすいようにまとめても、その監視役の担任教師までもが共犯な事が多いから全く役に立っていない。一般にこんな人物を指して「給料泥棒」と言う。
「転校生ねぇ」
気のない返事を返すマナ。ついさっき手に入れた相田情報によると、転校生は女生徒ということ。ごく正常な13歳の乙女としては、はしゃぐ気にはなれない。これが、『カッコイイ男の子』というのであれば、自ずと反応も変わったかもしれない。
「ヒカリは大変じゃないのぉ。委員長だし」
完全に他人事モードのアスカ。
マユミはまたぞろ怪しげな本に没頭中。今どき、年代物の和書を痛まないように厳重にカバーでくるみ中学校に持ってくるような非常識人は、日本広しといえど彼女ぐらいのもの……そう思いたいなぁ。ときどき、思い出したように校内の図書館から持ち出したやけに分厚い――漬け物石の代わりになりそうな――漢字辞典を凄い勢いで引いたり、含み笑いを漏らしたりしている。草書体が何とかと言っているが……
ちなみに、辞書には「禁帯出」のシールが背表紙にでかでかと貼られていたりするが、誰も――ヒカリでさえ――注意しようとしない。まぁ、これが図書館にないからと言って困る人物がいるとも思えないし。
「大丈夫よ、アスカ達が助けてくれるし……助けてくれるんでしょ? アスカ」
「まぁ、ヒカリだけに押しつけるわけにはいかないし、ね」
最後の「ね」はマナとマユミに向けたもの。この一言で、出来れば面倒を避けようとした二人も巻き込んでしまう。去年、学年トップをとった頭脳は伊達ではない。思考の方向性の違いから、マナに譲る面もあるけど。
「そう言えば、三バカは?」
これ以上面倒な話を振られる前にマナが露骨に話題を変える。
「相田君は帰っちゃいました。『明日に備える』とか言って……」
それに応えたのはマユミ。ちゃんと話だけは聞いていたようだ……なんて器用な。
それにしても、ケンスケ。なかなか気合いの入ったバカッぷりである。だから学校の成績は良くなかったりもする。出席日数もギリギリ。
「アレはいいとして、ジャージとシンジは?」
「アスカ、何で私に聞くの」
返ってくる答えなんて分かってるのに聞き返してしまうヒカリ。
「やっぱり、『愛する鈴原君』に関しては一番詳しいじゃない、ヒカリが」
のほほんと、あんまり大きな声で――公然の秘密なんだけど――言っちゃイカン事を宣うマナ。友人の秘めたる恋心は影ながら応援してあげようね。
「なっ、何言うのよ。そんなことあるはず無いじゃない。すっ、鈴原なんて何とも思ってないわよっ」
「「ふーん」」
含むところ有りまくりの返事をアスカとマナがそろって返す。これほどまでに動揺したんじゃ大声で叫んでいるも同然か。
「それはそう言うこととして……ヒカリ、本当に知らないの?」
ただいまお昼休み。食欲は満たしたものだからお日様の良く当たる席に溜まって、まったりとした時間を過ごす……中学生のお昼休みとしては不健全きわまりない。
だからと言って、アスカとマナに関しては体を動かすことが苦手なわけではない。むしろ得意と言った方がいい。幾つかの弱小運動部の助っ人にかり出されることもあるぐらい凄かったりする……二人ワンセットで。そう言うわけで、運動部に所属しなくてもゲームはできるものだから正式に所属する気なんて欠片もない。それでも、規則でどこかのクラブに所属しなければならないので、「英会話部」にて幽霊部員に励んでいる。部員の9割が幽霊部員というなかなかなクラブ。そのうち「帰宅部」に改名するという噂が後を絶たなかったりもする。
今日は5時間目が終われば放課。その後の予定でも立てたいところ……晩ご飯のおかずとか。
「その言い方ちょっと引っ掛かるけど……うん、知らない。二人とも」
とりあえず穏便に済ませることにする。精神的にちょっとオトナだね。
「なんだ……居ないんじゃしょうがないか」
「愛しのお兄さまが?」
アスカが椅子から転がり落ちた。
「豪快な反応するわねぇ」
感心したようにつぶやくヒカリ。
「分かりやすいですねぇ」
淡々と意見を述べるマユミ。
「まさかここまで効果があるとは思わなかったわ♪」
自分で言っておきながら、あまりに正直な反応にあきれ気味のマナ。でも、ちょっと嬉しい。
「んな言い方したら、ブラコンのイケナイ関係みたいじゃないのっ」
「まぁ、そうだったんですか? アスカさん」
「ち・が・うって」
アスカ、下の階にまで響きそうなほど足裏を何度も教室の床に叩きつける。まるで子供。小さい頃はこんな感じだったっけ……ちょっと懐かしいヒカリ。
「血縁はないわけだから、キスもその先も法律上、道徳上問題ないってわけね♪」
マユミに続き、追い打ちをかけてくるマナをひと睨み。並の人間なら石にでもできそうなほど殺気がこもっている。
あいにくここは葛城組。凍りついたりするぐらいで、そこまで威力を発揮することができない。特に、焦点のマナなんかには全然効いていない。あ、ちょっと冷や汗をかいてるか。
「そっ、そんなに嫌なら代わろっか?」
「ふん、お断りよっ!」
なんだかんだ言って今の状況を受け入れているアスカ。まだ頭に血が上っているから、今のマナの言葉に本気が混じっているなんて気がつかない。三人に背中を向けてしまい、完全に拗ねてしまった。
「言い過ぎですよ、マナ」
「マユミだって追い打ちをかけたでしょうが」
「だってアスカさんって、からかうと面白いものですから……」
「マユミ……それは私より酷いよ」
アスカを宥めに掛かっているヒカリを横目にちょっとため息。制服に付いた埃を払いながら、かなり怒っている様子。
さすがに、パフェでもおごらないとダメかなぁ。財布の中がかなり寂しくなりそうな感じ。
「……って言うのよ。信じられるぅ?」
夕食後の碇家。シンジはアスカが帰ってくるなりまくし立てられたので――大事なところはさすがにぼかしていたが――一度聞いた話。でも、キョウコと一緒に大人しく聞いてやってる。話題は、今日のお昼のこと。帰りにパフェを3杯もおごらせた割にまだご立腹みたい。
ヒカリやマナなんかは、3杯目のパフェをほおばりつつ「太る心配をしなくていい」とのたまうアスカにちょっぴり殺意を抱いたらしい。マユミは「見ているだけで胸焼けがします」とのコメントを残している。
夕食もきっちり残さず…食べて……この細い身体のどこに収まったのだろう?
「シンジ、アンタ…おっ、お兄ちゃんなんでしょ。助けに来てくれても良いじゃないのっ」
「えー、なんだよそれ。そんなの分かるわけ無いじゃないか」
アスカ手作りの弁当を食べ、腹もくちくなったので屋上でトウジとひなたぼっこ兼、昼寝をしてたシンジ。おかげで5時間目にちょっと遅れたのはご愛敬というもの。だいたいその場にシンジがいれば、二人とももっと酷いことになるか――たいがいアスカの自爆によるもの――シンジ自身が一番被害を被るか――自爆したアスカが暴走するからだけど――とにかく、ろくな事にならなかったと思う。
シンジの気のない返事にちょっとむくれるアスカ。せっかくちょっと緊張してまで「お兄ちゃん」と呼んだのに。
実は、恥ずかしいから気がついていない振りをしているだけなんだけど。ほら、視線が宙を舞っている。キョウコから見れば微笑ましいばかりだ。兄妹仲なのか、友人関係なのか線引きは難しいが……うまくやっているようだ。
再婚後、家に残るのがアスカだけではなくなったため残業が気軽にできるようになった。シンジのような少年なら安心して娘を任せることができる。ダンナは帰ってこないし……それを承知で結婚したのだから、とりたてて文句を言うつもりはないが。
ゲンドウは、大きな商談がまとまりそうだと言い、アメリカ西海岸に週5日詰めている状態。週末には帰ってくるようになったのが変化といえば変化。そう言えば、日に1回家に電話を掛けてくるようになった。キョウコの携帯には、日に何度も連絡を入れているらしい。顔に似合わずまめな男だ。
それを聞いたアスカが、見た目とのギャップに対応しきれずに立ちくらみを起こしたりもしたけど。
「んで、シンジ。聞いた? 転校生が来るって」
それだけ聞いただけなのに、心臓さんがいつもよりお仕事頑張ったり。それは、たぶん……転校生が女の子だから。アスカ自身がそこの所を分かっていないのが最大の問題かも知れない。キョウコの見るところ、本人も薄々感づいているようだけど。
当事者の片割れであるシンジはのんきなもの。というより、まだそのあたりの自覚がない。なんといっても13歳の少年。あーんな事やこーんな事を頭の中では考えていても、実際の所は色恋なんざ無縁の世界と割り切っている。意外と現実主義。精神的、肉体的な成熟は女の子の方が早いというのもあるけどね。
実は女子にそこそこ人気があったりするものの、アスカやマナといった『超』がつく元気娘がいつも側に居るために一般の女の子ではアピールするのが凄く大変……っていうかシンジが気づいてくれないし。少女達の方も素直じゃないから、シンジの感覚はずれっぱなし。
だいたい、あの二人を超えるキャラクターといえば、彼女らの担任と副担任。ともに美人で頭脳明晰、でも独身なのがミソ。
「ん? ああ、ケンスケがなんかそんなこと言ってたね。かわいい娘かなぁ」
そこはそれ13歳の男の子。正常な反応なんだけどアスカにとってはおもしろくない。自分から振ったくせに。
「ふんっ、知らないわよ。そんなの」
この瞬間、いまだ見ぬ転校生はアスカの“敵”に決定。なんで?、って所を突かれると今のところ本人にも答えられないんだろうけど……いや、答えたくないんだな。
シンジはシンジで、なんでアスカが不機嫌になったのか今ひとつ理解できていない。キョウコに目で助けを求めるが、にこにこ笑っているだけで介入しようとはしない。犬も食わない類のものと分かってるから。第一、ここでシンジを救出などすればアスカに恨まれてしまう。
最後には、シンジが今度の日曜にアスカの荷物持ちをすることに決定。収まるべき所に収まったんじゃないかな。
とりあえず、本人たちは「デート」とは言っていないし。ただの「買い物」なんだって。心の中じゃどう思ってるか知らないけど。
アスカがお風呂に行ったあと、テレビじゃ久米宏がとちっていた。
「なんでアンタが寝坊すんのよっ」
「アスカだって起きられなかったじゃないかっ」
「男のくせに、細かいこと気にすんじゃないわよっ」
走りながらこれだけの会話をこなすとは……碇兄妹恐るべし。ちょっと前まで、アスカに追いかけ回されながら言い訳を叫んだりしていたから鍛えられたようだ。その時は、追跡者もいろいろ叫んでいたりしたから条件はイーブン。
並んで走るのはいいんだけど、お互い顔だけ向き合ってと言うのはいかがなものか。シンジにとっては勝手知ったる通学路、分かれ道に来ると自然に体が正しい道の方へ反応。それにあわせるアスカ。なかなか息が合っている。
だからといって前を見なくても良いというものではない。まぁ、時間が時間だけに第壱中学校の生徒の姿は見えないが、何が出てくるか分かったものではない。
どうして二人が寝坊したか……遠足前の子供みたいに嬉しい事とか、楽しみな事とか。おかげでキョウコに起こされてしまった。この時点で普通のクラスなら遅刻確定。
そう、普通のクラスなら。でも、この二人は「葛城組」こと2−A。
「ミサトの遅刻」という最後の希望が残っていたりするから一生懸命にもなる。HR開始のチャイムを聞きながら校門への最終コーナーに踏み込む。少し遅れたアスカの前を水色の影が横切り……
「うわっ」
「きゃっ」
「んにゃ」
とても愉快な悲鳴を上げながら、三人がもつれ合うようにスッ転がる。なにげに吹っ飛ぶ食べかけの食パン。
「イタタタタタ」
と、目の前に転がっている少年と目が……合わない。なんか視線が下、それも見比べているような……ん?
自分の格好を認識するだけの余裕が生まれる。それを目視にて確認。豪快にまくれ上がったスカート。両の足は、別々の方向に投げ出されている。
「うみっ」
「きゃっ」
二人同時にスカートの裾を抑え、路上に正座。隣で似たようなことをやっている赤い少女の様子をうかがう。青の少女の目から見ても綺麗。だけど気の強そうな娘だ。
アスカの方も、シンジへの制裁を後回しにして――あくまで後回し――様子をうかがう。青い髪と赤い瞳が印象的……神秘的。顔の造形も悪くない……と言うかアスカと並び極上の部類に入ること間違いなし。そのあたり、認めるのはちょっと悔しい。それに加え、何とも言えない愛嬌というものが感じられる。これはアスカが持ち合わせていないもの。
アスカの超高性能生体コンピュータ――学年トップを誇る脳味噌のこと――がはじき出した結論。
敵。
いやはや、恋する乙女は大変だね。
すぐそこの学校から朝のホームルーム終了のチャイムがのーんびりと聞こえてくる。
「やっばぁ、転校初日から遅刻なんてシャレになんないよね」
軽くジャンプするように立ち上がって、チェックのブリーツスカートの汚れを払う。どこの制服か知らないが、けっこうかわいい。壱中のジャンパースカートも悪くないが、こう言うのを見せられると野暮ったく感じてしまう。
「ぶつかっちゃってごめんね、じゃ」
シュタッと右手を挙げて走り出してしまう。気恥ずかしさも手伝ってなかなかのスピード……スカートなのに。
「なに……あれ?」
「さぁ……」
アスカの問いかけに生返事を返す。その様子に思うところがあったのか、アスカの表情が変わる。
「シ〜ンジ♪」
「ん?」
滅多にない柔らかな呼びかけ。それでも上の空。何かを記憶に焼き付けようとしているのかな?
「何色?」
「ピンクと薄いブル……っ!」
「みんな忘れてしまいなさいっっっっっっっ」
殲滅。
道の端に転がったままの、食べかけの食パンだけがその惨劇を知っている……
「かーっ、なんちゅううらやましいヤツや」
トウジの大声もかき消されそうな喧噪。1時間目半ばに至ってもまだやってこない担任。副担任リツコの手によって黒板に書かれた『自習』の文字。社会科――2年生は世界地理――担当もミサト。有志による調査隊の報告によると、つい5分前に青いルノーが到着したとのこと。もうそろそろやってくる頃かも知れない。
「これでも?」
力のないシンジの声。
左の頬を濡れタオルで押さえているため分かりにくいんだけど、見事な赤い手形と腫れあがりようにクラス全員引いてしまったほどだ。シンジの顔にそういうものを描きあげたご本人様のオーラで、クラス全員視線を合わさないように俯いてしまったというのは余談。
「やっぱりパスさしてもらうわ」
さすがに腰が引けるか。
事情を聞いたヒカリとマユミは、同情半分怒り半分。やや潔癖性のきらいのある二人だけに「妥当な処置」と思っているみたい。マナは「減るモンじゃなし」とシンジ同情派。自分の“ぱんつ”を見られたのであれば対応も変わるかも知れないな。「責任取って」とか。あ、前にホントにやったっけ。見事に失敗したけど。
アスカ、右手をこれまた濡れタオルで冷やしながら、今となってはちょっと後悔。しくじって、自分の手も痛めたからと言うのとはちょっと違う。それも都合よく見たがる連中にしたら「碇(兄)に下着を見られたショックで落ち込んでいる」という解釈も成り立つわけで……そういうタマじゃないことが理解できないのか、夢を見たがっているだけなのか。
さっきの怒りようからの落差がすごい。
シンジとしては、そんなアスカが気になるわけで……
「まったく……ミサト、あなたという人は……」
怒っている。近年希に見る怒りようだ。職員室に残っていた同僚、一人としてこちらを見ようとしない。それぐらい怒っている。
「あら……リツコ……」
職員室の引き戸を挟んでご対面。
ミサトの後ろ頭に、でっけー汗が垂れていたりする。
リツコの額には無数のタテ線。背後には、おどろマークが躍っていたりもする。
「『あら、リツコ』じゃないでしょっ。今何時だと思ってるのっ!!!!!」
「ごみん」
言いたいことは有り余って仕方がないところだけど、今は教室へ行かせることの方が重要。ミサトの遅刻は今さらといえば今さらだけど、だからといって放っておけば黙認したような形になってしまう。
それではいけない……苦労性な同僚は思うわけだ。
「いや、だって、絶対遅刻しちゃいけないと思うと緊張して寝らんなくって……んで、明け方までうとうとして、そのあと本格的に寝ちゃって気がついたら8時半……」
親友の視線が痛ひ。
「話はあとから……じっくりね、ミサト」
職員室の隅、パーテーションで区切られた応接スペースへと足を向ける。うなだれてそれに続くミサト。彼女に拒否権は存在しない。
扉がないからパーテーションの壁をノック。よく響く。
弾かれたように二人の教師の方を向く少女。顔が引きつっているような気がするのは……気のせいじゃないと思うなぁ。だいたいとことんまで髪を脱色した教師が横行していると言うだけでも信じがたいのに……リツコの表情もかなり柔らかくなってはいるけど、先ほどまでの怒気が僅かながら行動の節々に見えてしまう。何せ、ミサトでさえすくみ上がる代物だ。そう簡単に隠せやしない。
それでも立ち上がって元気にあいさつ。
「あ、綾波レイです。宜しくお願いします」
勢いよく下がる水色の頭。
「ふふ、そんなに畏まらなくても良いわよ」
その姿に好感を抱いたのか、一転して笑みを浮かべるリツコ。
「私が副担任の赤木リツコ、担当教科は理科よ。コレが葛城ミサト。不幸なことだけどあなたの担任よ、応援するから負けないでね」
えらい言いようだ。
「赤木先生、代名詞の用法に間違いがあります」
「ミサトだから問題ないわ」
ささやかなミサトの抵抗も粉砕。自然とレイの面に笑みが戻る。
レイの遅刻の方は「初めてなんで道に迷ってしまいました」の一言で片づいたから問題なし。
ミサトの盛大なため息。困ったように頬を人差し指で軽く掻いてから、レイの方へと視線を戻す。一つ、満面の笑み。邪気のない、だから知っている者にとっては怖い笑み。
「担任の葛城ミサト。ミサト……で良いわよ。教科は社会……よろしくねん」
ウインクをサービス。
意外と子供なんだ……このひと。
何となく、レイはそう思った。
「喜べだんしーっ。噂の転校生を紹介するわよ。とびっきりの美少女だからってがっつかないよーに。特に相田君」
弾ける笑い。ダシにされたケンスケの方はそれどころじゃなく、教室5カ所に設置したカメラのリモコンスイッチの管理で手がいっぱい。
教室の裏の方にはリツコもスタンバッている。これは珍しい……監視だね。
「じゃ、入っちゃって」
注目。勢いよく開かれる引き戸。
元気よく、律動的な歩調でミサトの隣へ。
染めただけでは決して手に入らないだろう水色の髪、カラーコンタクトより複雑な色合いの赤い光彩。抜けるように白い肌。とびきりの美少女。
「綾波レイです。よろしくお願いしますっ!」
しかも元気。
誰が反応するよりも早く、
「「あーーーーーーーー」」
重なる声。ああ、またか……クラスメイトの諦めにも似た感想。
「あーーーーーーーーー」
立ち上がった二人のうち、男の子の方を指さして大声を上げる転校生。
「今朝のパンツ覗き魔」
爆弾
「失礼ねっ、アンタが勝手に見せたんじゃないの」
すかさずフォローを入れる赤くて長い髪の少女。ちょっと面白くない。
「なにさ、かばっちゃって……アンタたちデキてんじゃないのぉ」
爆弾その2
「ちっ、ちっ、ちっ、違うわよ。きょっ、兄妹よ、兄妹。妹としては、おっ、お兄ちゃんが不当な扱いを受けるのを断固阻止する義務があんのっ」
「言い訳ならもっとましなの考えなさいよ、どー見たって無理よ兄妹なんて」
まぁ、ふつーに考えりゃそうだわな。と、クラス全員奇しくも同時に頷いたり。方やどう見ても日本人、方やどう見ても外国の血が入っている。
「んな、言った瞬間分かる嘘吐いたって仕方ないでしょ!」
確かに……また頷いてしまう級友たち。ノリもつき合いもいい。ヒカリだけが事態の収拾を懇願するように、リツコに視線を向けて。なぜ担任に任せないか……言うだけ空しくなる。やめよう。
「綾波さん。あの二人が兄妹って言うのは本当よ……で、シンちゃんの顔がなんで歪んでいるのか、先生興味あるわぁ」
鬼教師。せっかく論点がずれてほっとしていたシンジに冷たい視線が集まる。そりゃぁ、やっぱりパンツ覗き魔だから。
アスカ……私がぶっ叩きましたと、改めて言うのもさすがに憚られる。
「で、どうなの?」
しつこい。これが職務のためならともかく、半分以上趣味ときているから始末が悪い。
と、碇兄妹が二人して焦っていると、思わぬ所から救いの手はさしのべられた。その手の出所は、教室の後ろにいらっしゃるこわーいおねいさま。
「葛城先生。綾波さんの席は?」
なんか、とっても機嫌が悪そう。
2−A全員、今日は理科の授業がないことを感謝。
「う゛、分かったわよ。
えーっと、綾波さんの席は……碇さんの隣ね」
と、言うことはシンジの後ろでもある。今朝、ヒカリがトウジに申しつけて用意させた机と椅子だ。だから、ヒカリにできるだけ近いところにセッティングされてる。ミサトの指示がなかった……ということは、このクラスを実務面から支えているのがヒカリということ。リツコの頭痛の種は尽きないんだな。
「やっ、やっと昼休み……」
教科書の届いていないレイに、アスカが席を近づけ見せてやっていたのだが、そこから届く刺すような2つの視線に身も心も疲れ果てたシンジ。2時間目あたりまでは出来るだけ小さな声で口論しているようだったけど……ともに下着を見られたことから結託したみたい。漏れ聞こえてきた会話からの推測だけど。
「シンジ、お弁当……屋上で食べるわよ」
「碇くん、今朝のことじーっくり話し合いましょ」
助けを求めるように親友達の姿を探す……居ない。既に売店へダッシュしていったらしい。これはいつものこと。使えない奴ら。
「シンジっ、なにもたもたしてんのっ!」
最後の手段とばかりに、ヒカリへ取りなしを求めようとしたが、相手の方が視線を合わせようとはしない。どうやらアスカと話が付いているらしい。ダメもとで、マナ、マユミへと視線を向けてみるが反応は似たようなもの。さすがはアスカ、根回しは完璧。
しかも、肝心のお弁当はアスカの手の中。肝心なところはきっちり押さえている。
「分かったよ……」
どこからともなく「ドナドナ」の調べが聞こえてくる……気のせいだけど。
「いいんですか? マナ」
「こればかりはねぇ……あの3人の問題だから……」
「そうじゃなくて……」
さらに言い募ろうとするマユミ。指一本を突きつけ、黙らせてしまうマナ。
「いいのよ……私がそう言ってんだからさ」
ただひとり、マナの思いとその困難さを知るが故に口をつぐむしかないマユミだった。
二人の少女がベンチに腰掛け、少年はその前に正座。何とも理不尽な構図。
「まぁ、見ちゃったものはしかたがないとして……」
「私がぶつかっちゃったのも悪かったし……」
以外と理解のあるお言葉に驚きの視線を向けてしまうシンジ。レイはあんまり知らないからともかく、アスカからこういうセリフが聞けるとは思わなかったから。
「それに、その場の勢いで殴っちゃったし……」
ばつの悪そうに顔を背けてしまう。自分が悪いと思ったときの、昔からのアスカの癖。
「それは、それとして」
少し沈んだ空気に「活」を入れるようにのーてんきな声を張り上げるレイ。
「シンちゃん!」
「へ、ボク?」
呼ばれ慣れない呼称に戸惑い。なぜかアスカの顔色をうかがってしまう。気を悪くしてるんじゃ……?
ちょっとむくれてはいたけど怒ってはいないみたい。最終的に許可を出したのがアスカだからしかたがないんだけど……「なんでアスカが許可を出すのか?」というところが最大のポイントかもしれない。
「そっ、他に人いないじゃない」
さもとーぜんのように。名前で呼ぶことはアスカが禁じて、姓で呼ぶことはレイが嫌がって……その折衷案が「シンちゃん」。押しの強さでアスカに対抗できるとは、恐るべし綾波レイ。
「んで、シンジ。アタシたちに何か言わなきゃいけないことがあるんじゃない?」
レイも、「そうそう」と言わんばかりに、腕を組んでぶんぶんと音がしそうなほど首を縦に振っている。
アスカは、指を突きつけるいつもの感じ。いつの間にか立ち上がってる。
「えっと、言わなきゃいけないこと……?」
「親しき仲にも礼儀ありっ! こういうことは今のうちに、きっちりやっとかなくちゃ。アタシなんか一緒に住んでんだからねっ」
一緒に住んでいることがどう関係してくるかは分からないけど、えらく力が入っているし燃え上がっている。もしかすると、レイに対する牽制のつもりかもしれない。
「確かに、事故とは言え見ちゃったんだし……」
あくまでシンジの自発的な謝罪に期待する少女たち。
ここまで言われればさすがのシンジも気がつく。というか、ここまで言われなければ気がつかないのも問題。
「ああ、えっと……ごめん」
「まぁいいわ。許してあげる」
欲しかったのはきっかけ。レイを巻き込み、ちょっとイレギュラーな形で早期解決。ベンチの自分の隣、レイとは逆の方をぽんぽんと叩く。
満面の笑み。それがシンジへの謝罪の証……ちょっとばかり(?)やりすぎたお詫びもこめて。
それはそれで、レイに弱みを鷲掴みにされてしまったわけで……先のことを考えると失敗だったかもしれない。そこまで考えてる余裕が今のアスカにはなかったわけで……そのあたり、もう少し素直にならないと、ね。
アスカ、隣に座ったシンジにお弁当を手渡す。だから、それを見ているレイの表情には全く気がつかなかった……シンジ君に見られなくて良かったね、レイちゃん。
そんな三人の足の下……2フロア分降りたところにある教室。ドアの上には慎ましく【2−A】と掲げられている。用意された枠は普通……普通じゃないのは中身の方。
すみっこに集まる3人と2人。
茶色がかった短めの髪の少女は落ち着かなげに教室の出入り口へと何度も視線を送っている。いつもよりかなり元気がない。
眼鏡に長い黒髪の少女は、いつものように曰くありげな本を読んでいる。達筆すぎて、アスカでも読めやしない本。マユミをよく知る者が見れば、集中できないのかページをめくるペースが普段よりかなり遅いことが分かるだろう。それでも、並みの人間には追いつけない速さだけど。
おさげ髪の少女は……かなりイライラしている。ジャージの少年に事あるごとになにやら言っている。少年は少年で、辟易しながらもちゃんと相手をしている。
最後の眼鏡の少年は、廉価なデジタルカメラの内蔵制御ソフトを自分好みに改造中。口の端に浮かんだ笑みが怪しすぎ。
「アスカ……遅いなぁ」
ぽつり
その場にいる4人の視線がマナに集まる。
「なっ、なによ」
その一言で全ての視線が戻ってしまう……ちょっと寂しい。
そんなことが3分ごとに繰り返される教室。
嵐の前の静けさ……そんな言葉が浮かんでは消える。
5時間目、数学担当の伊吹先生は生きた心地がしなかったらしい。だってこのクラスが静かだなんて、なんか裏がありそうだもん。
どうもしっくりこない。マナとレイの間に引かれた見えないけど明確な一線。普段は表面化することはない。レイの容姿に関して裏でなにやら言う連中――人の身体的特徴をあげつらうような心の貧しい連中だが――を女子はアスカとマナが、男子はトウジがシめてまわったりしてるんだから……おおむね仲がよいといっても言いかもしれない。
でも、お昼とか、帰り道とか……ちょっとしたきっかけで険悪になる――原因はシンジだけど――まぁ、この場合アスカも参戦するんだけど。そこでのレイはアスカに全く手加減しない――本人が自覚しているかどうかも怪しい弱みを握ってるからだけど――のに、マナにはかなり遠慮がある。結局はそこに行き着いてしまう。
それでも、潔癖耳年増委員長や万年ジャージ男、怪しげな本に熱中する文学少女にかなり“キ”が入った笑いを浮かべながらプログラムの改竄に勤しむ盗撮少年。瞬間沸騰腕力娘に手加減知らずの鋼鉄陰謀女……プラス、重度の鈍感野郎。この濃すぎるメンバーに引かなかっただけでも大したものなのに、しっかり自分のポジションを確保してしまった。
と、いうわけで、2−Aの裏の裏が表とは限らない壱中の闇の奥でこっそり開催されている『チキチキ碇(兄)のはぁとを誰がゲッチューするか杯』のオッズにもかなり影響があったわけだ。胴元はヤツしかいない。齢14にして立派な犯罪者(盗撮は犯罪です)。
アスカ、マナに急追する第3の刺客の出現。けっこういたりする参加者もその動向を注目していたり……おいおい、この参加者リスト青葉とか日向とか冬月……葛城は当然としても赤木、伊吹の名まであるじゃないか。当局の者まで巻き込むとは……やるなケンスケ。
……戻す。やはり台風の目はシンジ。だから周りは嵐。無力な一般市民は逃げて伏せてそれが去るのを待つだけ。
でも、今日はほんの少し違った。
「なんでアンタが『シンちゃん』なんて馴れ馴れしい呼び方するのよ」
私でも「シンジ君」なのに……というのはプライドで飲み込む。
「別にいーじゃない。シンちゃんに「シンちゃんて呼んでいい?」って聞いたら「うん、いいよ」って答えてくれたんだからぁ。シンちゃんをシンちゃんって呼んで何が悪いの!」
ここのところ、アスカがシンジを名前で呼ぶようになり焦りを感じていたところ。そこへこの『シンちゃん』という呼称。魅力的……でも恋敵候補の二番煎じはヤだ。しかも、もっとも強力な恋敵は名前で呼ばれているし。もっと悔しいのは、自分もそして目の前の強敵も同じように呼ばれている。「綾波」と。くーっ、「霧島さん」の「さん」を外させるまでに3ヶ月も掛かったのに……
「良いとか悪いとかの問題じゃないっ。出会って間もないのにそんなに馴れ馴れしくする? ふつう」
「いいじゃん、べつに。それがわたし流なんだから」
「あぁぁぁぁぁぁ、もう、あー言えばこー言う。泣かす泣かす泣かすぅ、ぜぇぇぇぇぇったい泣かすぅ、このコパンダ!!!!!」
……中学生のケンカか? これが……
普段なら、外堀から埋めて完勝を目指すんだけど、何せ今日は焦りが入っている。どうも幼児化しているみたい。 今までアスカさえ何とかできればいいと思っていた――一緒に暮らしていればあのアスカのことだ、ぼろを出してシンジを失望させてくれるだろう――のに思わぬ伏兵が現れた。過剰気味の警戒心を一挙に解放。
んでもってこの始末。まことにマナらしくない泥試合の様相を呈してきている。
「この愛らしいレイちゃんを捕まえて“コパンダ”なんてよく言えたものね。その状況認識能力の無さ、褒めてあげるわよっ!!!」
碇兄妹は3日分の食料調達にスーパーへ直行、鈴原とヒカリをそれとなく二人きりにしてやり――これだけ協力したんだから、結果は後日細大漏らさず報告していただくつもりが――相田は横須賀へと私的な出張。残ったのがこの二人。家も近いことから通学路の90%は一緒。
かなり重い雰囲気に負けたレイが、
「言いたいことがあるんなら言っちゃってよ」
ぽつりと。
この一言にマヤは乗った。乗ってしまった。やっぱり人間我慢のしすぎは良くないね。
かくして、目撃した人にとっては孫の代までの語りぐさになるような恐ろしい舌戦が繰り広げられる。ただし、内容は高尚でも深刻でもない。自分を切り売りするような言葉が飛び交う……天下の往来、路上にて。ご近所へのさらし者。
お互い興奮しているからダメージも薄い……ややもすると自分の方がでかいダメージを受けるようなことも言ってたりする。やっぱり興奮しているから効果はイマイチ。
知り合ってからそう日は経っていないから、言うべき事は簡単に尽きてしまう。言わなくてもいいことはかなり言ったような気もする。でも、やっぱり尽きてしまう。
しかし、まぁ、1時間もよくやったもんだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……やっ、やるじゃない……ここまで粘ったのはアスカ以来よ……綾波さん」
「はぁ、はぁ……あなたもね、霧島さん」
「マナ……でいいわよ、もう」
「じゃ、私もレイでいいわよ」
握手。女の友情成立。特定条件下ではあっさり崩れるのはお互い承知の上。
今夜、言われたこと言ったことひっくるめて思いだし、涙することになるのは……やっぱり自爆。ちょっとブルーな3連休の始まり。
碇邸。
「シンジぃ、晩ご飯できたよぉ」
大人にはゴールデンウイークなるものがあり、一括してお休みがいただけたりする。そう言うわけで、キョウコは現在米国西海岸。あちらはお仕事中なわけで、ゲンドウも先方に合わせて働かにゃならない。
それでもちょっと遅めの新婚旅行気分というわけだ。存外けちくさいけど、時間がとれないんだから便乗しようと言うわけ。
残ったのは子供達。友人たちに話すとなんか大変なことになりそうだから内緒。二人きりで秘密を共有……なんか楽しい嬉しい。
最近、シンジと二人きりになると心が浮つくのが分かる……昨日みたいに、どこかに行ったわけでもない普通の日なのに。先日レイに対抗してしまった手前、認めなきゃならない感じはするけど……ホントにそうなのかは自信がない。こういう時頼りになる母はいないし……どうしてくれようこの気持ち。
でもでも、こうして自分が作ったご飯を一心不乱にかき込んでいるのを見てると……何か幸せ。新婚さんみたい……どこからともなく聞こえてきた「ぼむっ」ってSE(効果音)と共に真っ赤になるアスカ。元の色が白いから目立つし、何かこう……ほら、シンジ君の目が離れないし。
「なっ、なに?」
「いや、その……ははははは……ナンカカワイイナッテ……」
「えっ?」
「えっ、いや、なんでもない…なんでもないよ、うん」
なんでもないわけがない口調で否定。分かりやすいやつ。
「ねぇ、アスカ」
そわそわ
「ん?」
そわそわ
「明日……ひま?」
そわそわそわそわ
「えっ? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっっっ」
それって、それって、それって……えぇぇぇぇぇぇ、やっぱりそーゆーことぉ。
昨日の“買い物”はノーカウントよっ。やっぱり“でぇと”は誘われるもんよ!!!
まさか、シンジからこういうアプローチが来るとは……想像だにしてなかった。
まぁ、理由を付けて自分から連れ出すつもりではいたけど。
「用事……あった?」
さっきの悲鳴の意味を取り違えてしまったシンジ。当然と言えば当然。
ぶんぶんと音がしそうなほど首を横に振って否定、否定。
「ないない、ひまひま」
不意打ちがクリティカルヒット。いつもの虚勢をはる暇もない。
その勢いに少しだけヒくシンジ。逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ。
「じゃぁさ、明日……どっか行かない?」
「でーと」だ、「でーと」だ。しんじが「でーと」にさそってくれたんだぁ。
頭の中が幼児化しているぞ……おい。
「うん、行く行く。で、どこ連れていってくれるの?」
きょっ、兄妹なんだから別に良いわよね……浮かれてる自分に言い訳。
「どこって……芦ノ湖へ…ね」
「ふーん、期待してるから。お兄ちゃん」
シンジとなら、どこへ行っても楽しいんだろうけど……
まだ言葉にならない思い。
その日の碇家は、落ち着いてるけどびみょーな雰囲気に包まれていたという。