
高校になると同時にシンジは独り暮しを始めた。
と、言ってもミサトとアスカの面倒を見るのが嫌になった訳ではない。
父ゲンドウから「独りで暮らせ。拒否権は無い」と言われた。
その時のゲンドウは今まで以上に怪しい笑みを浮べていた。
ゲンドウから与えられたマンションは、3LDKと独り暮しをするにはかなり広い。
引越し前にトウジ達と下見した時は、春から通う予定の高校からも目と鼻の先という事もあって、
3バカの溜まり場になると思われていた。
しかし、そうはならなかった。
〜引越し前日
「シンちゃんが居ないと寂しくなるわね〜アスカ?」
ミサトは彼女特有の悪戯っぽい笑みを浮かべながらそうアスカに話し掛ける。
「べ、別にバカシンジなんか居なくてもアタシは全然寂しくなんかないわよ。」
と、アスカとしては冷静に答えたつもりだが頬は桜色に染まっており全く説得力が無い。
「ホントにそう思ってるのぉ〜?」
「あたりまえでしょ。これでお風呂覗かれる心配も無くなるし、
寝込みを襲われる心配も無くなるわ〜。ホントに清々するわよ。」
(ホント素直じゃないわねアスカは…。
シンジ君と一緒に寝てるのを知らないとでも思ってるのかしら?
毎日幸せそうな顔して寝てるくせによく言うわね。全く羨ましい……。)
そう心の中で思うと苦笑してしまうミサトであった。
アスカに抱きつかれてるシンジも無意識のうちにアスカの肩を抱いて寝ている。
こうも相思相愛の仲でもありながら別々に暮らさなければならなくなってしまった。
アスカの場合、
なかなか素直になれなくて「アタシを連れていって」とは言える訳も無くここの所かなりご機嫌斜めである。
シンジの方からついて来るよう言ってくれれば表面上嫌そうな素振りは見せてもついて行くだろう。
シンジの場合、
「俺について来い」的な事が言えるはずも無く、ズルズルと引越し前日まで来てしまった。
チャンスは今夜しかない。
素直になれないとアスカとあと一歩の勇気の出せないシンジ。
〜引越し前夜
(アスカを抱いて寝るのは今夜が最後かぁ。
最初の頃は恥ずかしかったけど、今はなんだか当たり前になってたよな。
なんだか寂しいな、父さんの命令に逆らえなかった自分が悔しい。)
今になって心底後悔するシンジ。
父に自分の意思を伝えられなかった自分が恨めしい。
アスカに「ついて来い」と言えない自分が情けない。
そう考えているうちに自然とアスカを抱く力が強くなってしまうシンジ。
(結局「ついて来い」って言ってくれないのね、シンジ。)
シンジにそれを期待するのは無理ってものであるし、
自分から言い出せば良いのは判っている。
しかし、プライドが許さないし、恥ずかしい。
(アタシがついて行きたいなんて言ったら、告白してるようなもんよね。)
毎日抱き着いて寝てるのに今更という気もしなくもない。
この夜は一言も話さずに眠りについた。
〜引越しの当日の朝
(僕はいつもの様にアスカの寝顔を見ている。
でも今朝はアスカが起きているような気がする。
頬が薄っすらと赤くなってる。
僕の視線を感じているからだろうか?
起きてるならなんで眼を開けないんだろう。
何かを待っているのかな…。)
しばらく考え込むシンジ。
だんだんいらつくアスカ。
(色々考えたけどアスカが待ってるとしたら多分アレだな。
いつもアスカからしてくれるアレ。)
ゆっくりとアスカの唇に自分の唇と近づけるシンジ。
あと5センチと言うところで痺れを切らしたアスカが眼を開ける。
「うわっ!」
いきなりアスカの眼が開いたので驚いて声をあげる。
「アンタもしかして、アタシが寝ている事を良い事にキスしようとしたわね。
油断も隙も無いわね。あぶなく乙女の純潔を奪われるとこだったわ。」
(なにが乙女の純潔だよ。いつもはアスカからキスしてくるじゃないか。)
(惜しかったわね。もう少し速くキスしなさいよね。バカシンジ。
シンジからキスしてきたら、責任を取れとか言って強引にシンジについて行けたかも知れないのに…)
〜引越し直前
「シンちゃんいつでも遊びに来てね。持ってるわよん。」
ウィンクしながらそう言うミサト。
「そうだ、カードキーを返してますね。」
シンジはミサトにカードキーを差し出す。
「私達は家族なんだから、それは返してくれなくても良いのよ。」
ミサトは首を横に振り、優しくそう言う。
シンジは目の前が涙で歪むのを堪えながらミサトに肯く。
「それにして、アスカはどうしたのかしらね?
アスカー!シンちゃん行っちゃうわよ。」
後ろを向いてアスカの部屋の方に呼びかける。
「別に遠くに引越すわけじゃないんだから、見送りなんて要らないじゃないのぉ。」
と、部屋の中から答える。
本当はすぐにでも出て行きたいのに…。
「別に見送りなんて良いですよ。アスカの言う通り家もそんなに遠くないし、学校で毎日逢えますから…。」
見送りにも出てくれないアスカに若干落胆しながらも笑顔でそうミサトに言う。
「本当にそれで良いの?」
「はい。」
「アスカを連れていっても良いのよ。シンちゃ〜ん。」
「「えっ!」」
シンジと自室で聞き耳を立てていたアスカが同時に声をあげる。
それを聴いたミサトは顔がにやけるのを必死に押さえながら、さらに揺さ振りをかける。
「そういえばさぁ〜、最近気付いたんだけど、アスカのベッド、使ってないように奇麗なのよね〜。」
それを聴いたアスカは勢いよく自室から飛び出し反論した。
「な、なに言ってるのよ、ミサト。アタシは奇麗好きなのよ。毎日清潔にしてるのは当たり前でしょ。」
「じゃ〜さ〜、夜中覗いても居ないのはどこ行ってるのかなぁ?」
(ミサト気付いてるわね。)
「じゃあなに。アタシがシンジと一緒に寝てるとでも言いたい訳?」
腰に手を当てるアスカお得意のポーズでミサトに言う。
「あ〜ら、誰もシンちゃんとこでいちゃついてるなんて言ってないわよん。」
「別にいちゃついてなんかないわよ。ただシンジを抱き枕にして寝てるだけでしょ!」
勢い余って、全てを暴露するアスカ。
<数日後にはネルフ中に知れ渡ったの言うまでもない。>
してやったりのミサト。
してやられたアスカ。
随分前から固まったままのシンジ。
その後、怒り狂ったアスカに追い出されるように送り出されたシンジであった。
〜引越し日の深夜
(ふ〜やっと整理が終わったよ。
ふと、時計を見ると5分前に0時をまわったとこだった。
今まで忙しかったから気付かなかったけど、この部屋ってだだっ広くて凄く寂しいな。
トウジ達と来た時は寂しいなんて感じなかったのに…。今は寂しい。)
「寝るか…。」
シンジはそう呟き自室兼寝室にあるベッドに倒れ込んだ。
疲れているのになかなか眠りに付けず何度か寝返りをうち仰向けになる。
「知らない天井だ。」
プルルルル、プルルルル、プルルルル♪
携帯が鳴り出す。
「こんな夜中にかけてくるのはアスカだな。」
シンジはベッドから降り机の上に置いてある携帯を掴み取った。
「もしもし、アスカだろ?」
相手から返事が無い。
「アスカなんだろ?」
返事が無い。
「アスカ?」
「……ンジ。」
「どうしたの、アスカ?」
「…シンジィ………寂しい……………………」
それは今にも消え入りそうなアスカの声。
泣いているのか、鼻をすする音が微かに聞こえる。
「アスカ、泣いてるの?」
「………………」
「今から迎えに行くから待ってて。」
「……待ってる。速く来て……」
シンジはアスカの返事を聞いた後携帯を切った。
「よし!」
引越しの整理をしていた時のままの格好だったので財布だけとって走って駅へと向かった。
(もう電車は走ってないし、歩いて行くにはちょっと時間がかかる。
そうすると、駅前のタクシー乗り場でタクシーに乗ってミサトさんのマンションまで行くのが一番速いな。)
そう考えながら走っていると最寄り駅が見えてきた。
(やっと駅に着いたか…ハァハァ…。)
全速力に近い速度で走ってきたせいか、かなり息があがっている。
少し速度を落としてタクシー乗り場に急ぎ、タクシーに乗り込みながら行き先を伝える。
「ハァハァ、あ、あのコンフォートマンションまで、ハァハァ、お願いします。」
「お客さん、随分急いでますね。どうしたんですか?」
シンジの息が整ってきた頃を見計らい、タクシーの運転手が話し掛けてきた。
「えぇ、ちょっと。」
「彼女にでもすぐ逢いたいとか言われたんですか?」
「えっ!」
驚いた声をあげるシンジ。
「そうなんですか〜。私の感も捨てたもんじゃないですね。
うちの女房なんか帰ってくるな、とか言いますからね。」
と、苦笑いと浮かべながらシンジに話し掛ける。
10分ぐらいして、コンフォートマンション前に到着した。
「すぐに来ますので、ここで待っていてもらえますか。」
「わかりました。」
運転手の返事を聞き、アスカの待つミサトの家まで走っていくシンジ。
カードキーでオートロックを解除し、マンションの中に入る。
エレベータを呼んだが、待っていられなくなり階段を駆け登った。
「ハァハァ、待っててね。アスカ。」
全力でミサトの家の前まで駆け寄り、カードキーで玄関のロックを解除して部屋の中に入る。
「アスカー!迎えに来たよ。」
玄関からアスカを呼んでも返事が無い。
シンジは中に入ってアスカを探す事にした。
まずは息を整えながらリビングを探してみる事にした。
シンジが引越して1日も経っていないのでビールの缶はそれほど散らかっていない。
「ここには居ないようだな。ここに居なければアスカの部屋かな?」
シンジはそう独り言を言いながらアスカの部屋に向かった。
コンコン!
アスカの部屋のドアを軽く叩くが返事が無い。
コンコン!
「アスカ?居るんでしょ。」
今度はドアを叩いてから部屋の中に居るであろうアスカに声をかけてみる。
が、返事が無い。
「アスカ、入るよ。」
ガチャ。
部屋のドアを開けて、部屋の中を見渡すとやはりアスカは居た。
ベッドの隅っこに膝を抱えて静かに座っていた。
その姿は普段のアスカからは想像も出来ない程弱々しく誰かが護ってやらないと壊れてしまいそうだった。
そう、誰かが護らなければ…。
「アスカ。」
アスカに呼びかけるシンジ。
「……シ…ン…ジ……。」
今度は呼び掛けに答えるアスカ。
「迎えに来たよ。」
アスカを優しく抱しめそう囁く。
「…うん。」
シンジに抱かれ安心したように答える。
「そうだ。タクシー待たせてあるんだ。早くしないと。」
しばらく黙ったまま抱き合っていた二人だが、シンジがその沈黙をやぶった。
「うん。」
「じゃ、簡単に仕度してよ。そのままの格好じゃ外に出れないよね。」
「わかった。」
「僕はリビングで待ってるからね。」
シンジはそう言いアスカの部屋を後にした。
15分後。
「お待たせ。シンジ。」
声がした方に振り向くシンジ。
そこにはレモンイエローのワンピースを着たアスカが立っていた。
「アスカ、その服が一番似合ってる様な気がするよ。」
「バカ。」
シンジはアスカが予想外に照れているので自分も恥ずかしくなってきたので、
速くこの場から逃げたくてアスカに出発を告げる。
「行こうか。」
「そうね。」
〜シンジの家の前
「ここが僕の家だよ。」
玄関前でそう言いながらドアのロックを外しドアを開けるシンジ。
「へ〜結構良いとこみたいね。家賃高そうね。」
少し、元気が戻ってきたのか、いつものアスカになりつつある。
「ここ、僕の家だよ。」
「え!?」
「だから、賃貸じゃなくて僕の家なんだ。」
「碇司令が買ってくれたの?」
信じられないといいう感じでシンジに質問する。
「うん。僕も信じられないよ。」
苦笑いで答えるシンジ。
「ま、こんな所で話てても仕方ないから中に入りましょ。」
「そうだね。」
先に部屋に入るシンジ。
「おじゃまします。」
「アスカ、今日からここはアスカの家になるんだからそうじゃないよ。」
アスカはその言葉を聴いて頬が染めうつむく。
そのアスカを見てシンジも恥ずかしくなる。
一瞬の沈黙。
「そ、それもそうね。じゃあ、ただいま〜。」
「おかえり。アスカ。」
〜部屋の中
「部屋沢山あるわね〜。シンジの部屋は何処にしたの?」
まだなにも無いリビングで周りを見渡しながらシンジに尋ねる。
「1番奥の部屋だよ。ベッドもそこに置いてあったしね。」
「へ〜。それでアタシの部屋はどこなの?」
「アスカが決めて良いよ。でも一番手前の部屋は和室だから洋室が良いなら真ん中の部屋になるね。」
「洋室が良いから真ん中の部屋にするわね。」
そう言いながら、自分の部屋になる真ん中の部屋に向かう。
「へ〜広いわね。ミサトの家なんか比べ物にならないわね。」
「そこの部屋は10畳だよ。」
「クローゼットも大きいわね。洋服沢山買っても大丈夫ね。」
シンジをチラッと見て悪戯っぽい笑みを浮かべるアスカ。
「アスカ。そ、そろそろ寝ようよ。もう3時をまわってるよ。」
服を買わされそうに感じたシンジは話題を変えてみる。
「それもそうね。洋服はいつでも買えるしね。」
「そ、そうだね(^^;」
翌日、シンジは洋服を買わされたのは言うまでもない。
〜寝る前
「あ〜、寝る時に着る服がな〜い。」
アスカは手ぶらでシンジの家に来たのだ。
「そのまま、寝れば良いじゃないか。」
「アンタバカァ!シワができちゃうでしょ。」
「じゃ、脱いで寝れば?」
「シンちゃんがアタシの美しい裸を見たいのは判るけどぉ〜、ちょっと露骨よねぇ。」
また悪戯な笑みを浮べるアスカ。
「ち、違うよ。」
「ま、シンジが見たいって言うなら見せてあげても良いけどぉ。」
「なに行ってるんだよ。アスカ。違うよ。」
「遠慮しなくて良いのよ。」
「違うってば、アスカ。もう許してよ。」
(かかった!)
そう心の中で叫ぶアスカ。
「許してあげるから、アンタは一生アタシの抱き枕よ。いいわね。」
「なんだよそれ〜。」
不満を口にするシンジ。
「不満だって言うの?アタシの体温を感じながら寝れるなんて最高贅沢なのよ。」
「なんだよ。アスカの方から一緒に……」
「なんか言った?」
「べ、べつになんでも無いです。」
アスカに睨まれてビビるシンジ。
(ま、良いか。アスカが元気になってくれれば。)
「そうだ、シンジ。アンタのTシャツ貸してよ。」
「Tシャツなんてどうするの?」
「アンタバカァ!着て寝るに決まってるでしょ。」
「そっか。」
「出来るだけ大き目のお願いね。」
「わかってるよ。」
自室にTシャツを探しに行くシンジの背中をじっと見詰めるアスカ。
(ホントはわざと持ってこなかったのよね。
いくらお子様なシンジでもTシャツだけのアタシの姿を見ればイチコロよね。)
(今のアスカと1時間前のアスカは別人だな。
それだけ僕を必要にしてくれてるのかな?
アスカにそう思われてるなんて嬉しいな。)
シンジはTシャツを探しながらアスカの事を考え、必要とされる事に喜びを感じていた。
「アスカ、これで良い?」
シンジの持ってきたTシャツは『平常心』と書いてある。
「なによこれぇ〜。メチャクチャセンス無いじゃないのよぉ〜。」
「仕方が無いだろ。」
「アンタがセンスが無いのは知ってたけどここまでとはね。」
シンジのセンスにはかなり呆れたらしい。
「ま、明日からアタシがビシバシ鍛えてやるわ。有りがたく思いなさい。」
「別にいいよ。」
「ダメよ。一緒にいるアタシが恥ずかしいでしょ。」
「なんでアスカが恥ずかしがるんだよ。」
「彼氏の格好を気にして何処が悪いのよ。」
「か、彼氏?」
シンジの驚いた声に急に恥ずかしくなり、顔が赤くなるアスカ。
恥ずかしそうにうつむいているアスカを見て、自分達の関係を認識してシンジも顔が赤くなる。
「やっぱり、僕たちってそういう仲なのかな?」
「あったりまえでしょう。それに同棲してるようなもんだし……」
「ど、同棲!」
「そ、若い男女が一つ屋根の下に二人っきりで生活してるのよ。
これを同棲と言わずなんて言うのよ。」
腰に左手を当て右手の人差し指をシンジを指し同棲宣言をするアスカ。
何がなんでもシンジに恋人同士だと認識させたいらしい。
「はいはい、そうだなアスカ。恋人でもなきゃ、夜中に寂しいなんて電話してこないよね。」
「な、なに言ってるのよ。」
シンジの意外な反撃にうろたえるアスカ。
シンジはここ1年で少しは成長したらしく少しは反撃できるようになったようだ。
〜ベッドの中
「アスカが横に寝てるとなんだか落ち着くよ。」
二人はいつもの体制でベッドに横になっている。
シンジの左側がアスカの指定席。
一生この指定席がキャンセルされることはないだろう。
今夜の様な事を繰り返さない為に…
〜そして朝
(今朝もいつもの様にアスカの寝顔を眺めてる。昨日で終わった筈の朝の日課。)
(シンジ、起きてるわね。そうだ…)
アスカは顎を少し上げ、口を気持ち尖らせる。
それを見たシンジは、今朝は迷う事無くそこにキスをした。
「おはよう。」
シンジのキスで今起きたかのように朝の挨拶をする。
「おはよう、アスカ。良く眠れた?」
アスカはシンジに抱き着いてこう言う。
「当たり前でしょ。アンタはアタシにとって最高の抱き枕なんだから…。」
おまけ
後書きというか途中書きというかなコメント
あ〜難しい。
頭の中で描いている事をうまく文書化できん。
書きやすいパーツから書いていったのも敗因かもしれん。
次からはもっと頑張るので「一ヶ月もかかってこれかい」とか言わないでね。
見捨てるな〜。